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2006年05月04日

新生代(13)−第三紀(10)−ドルドン

 新生代(13)−第三紀(10)−ドルドン

 ドルドン・アトロクス(Dorudon atrox) Wadi Al-Hitan , Egypt.

 (旧暦  4月 7日)
 
 2005年7月、南アフリカのダーバン市で開催された「第29回世界遺産委員会ダーバン会議」で、新たにエジプトのワディ・アル・ヒタン(Wadi Al-Hitan)が世界遺産に登録されました。
 
 ワディ・アル・ヒタン(Wadi Al-Hitan)はカイロの南南西約150kmの砂漠地帯、ナイル川左岸ファユーム(Fayyūum)地方の指定保護地域ワディ・エル・ラヤン(Wadi El-Ryam)の中にあり、別名「Whale Valley」(クジラの谷)、かつてはズーグロドン渓谷(the Zeuglodon Valley)として世界中の古生物学者に知られていました。

 この渓谷からは、クジラの進化において後足を失う最後の段階を示す貴重な化石類や珊瑚礁、サメ類の歯、カニ類、貝類、マングローブの根などを含む様々な種類の化石も発見されています。
 
 この地域は、かつては古地中海とも呼ばれるテチス海(Tethys Sea)の浅い入江が入り込み、河川と湿地で覆われていました。テチス海(Tethys Sea)は、パンゲア大陸が分裂を始めた中生代ジュラ紀の約1億8,000万年前から新生代第三紀中新世(Miocene)前期の約2,500万年前までの間に存在していたと考えられている海で、現在の地中海周辺から中央アジア、ヒマラヤ、東南アジアにまで広がっていたと考えられています。
 
 約4,000万年前の新生代第三紀始新世(Eocene)頃に堆積した砂岩(sandstone)、石灰岩(limestone)、頁岩(shale)の地層が地表に表出しており、この地層に初期のクジラの化石や海牛類、サメの歯、カメの化石などが発見されています。
 最も新しい地層は約3,900万年前の始新世(Eocene)後期に堆積したもので、浅瀬に棲む動物の化石が多数発見されていることから、この時代に地殻隆起が起きてテチス海が無くなっていったと考えられています。また、約3,700万年前には、マングローブの森が広がる海岸地帯だったと推定されています。
 この谷で初期のクジラであるズーグロドン(Zeuglodon)の化石が最初に発見されたのは1902年から1903年にかけての冬で、エジプトのベッドネル博士によるものでした。
 その後しばらく空白の期間が続きましたが、第二次大戦後になってカリフォルニア大学やイェール大学などのアメリカの研究チームがこの地を調査し、1983年になってミシガン大学の古生物学者ギンゲリッチ(Philip Gingerich)博士のチームは、何回かの発掘調査の末、世界で初めて原始的なクジラの後肢を発見しました。

 発見された後肢はバシロサウルス・イシス(Basilosaurus isis)のもので、バシロサウルスという恐竜のような名前は、1829年にアメリカのルイジアナ州で発見され、1832年に外科医で古生物学者のリチャード・ハーラン博士(Richard Harlan:1796〜1843)に鑑定に出されたときに水棲爬虫類と間違えられて、「皇帝爬虫類」(Emperor reptile)を意味するバシロサウルス(Basilosaurus)と名付けられていました。

 1839年、ハーラン博士は地理学協会の会合で講演するためロンドンを訪れた際、哺乳動物が中生代に生存していたか否かという論争に巻き込まれました。バシロサウルスは次の時代の始新世の動物でしたが、哺乳動物の代わりにある種の爬虫類に属することができる中生代の動物の顎に見られたいくつかの相違する歯がその論争を証明するものと思われました。
 
 ロンドンでは、著名なイギリスの解剖学者リチャード・オーウェン卿(Sir Richard Owen、1804〜1892)がハーラン博士の化石を精密に調査し、中空の顎は爬虫類の特徴を示しておらず、むしろマッコウクジラ(sperm whale)に見られることを指摘しました。また彼は、脊椎骨の脊髄径路の形が爬虫類ではなく、クジラのものであることに気がつきました。
 ついには、いくつかの歯を割り開くことによって、オーウェン卿はそれらは海棲爬虫類のものというよりは、海棲哺乳類のものであることを示しました。そしてオーウェン卿は、その発見物をズーグドロン・ケトイデス(Zeuglodon cetoides:Yoked-tooth=くびきでつながれた歯)に改名することを提案しました。

 ズーグロドンは、4,000万年前から3,700万年前のテチス海を、細長い体をうねらせて泳いでいました。
 原始的な大型のクジラ類で、その非常に細長い体形から通称「ヘビクジラ」ともいわれますが、鼻にはまだ嗅覚が残っていると思われ、胴体にはまだ痕跡的な後ろ足があるなど、陸生動物としての名残が見られます。

 さて、ドルドン・アトロクス(Dorudon atrox)ですが、これもギンゲリッチ(Philip Gingerich)博士のチームにより、1996年に完全骨格がワディ・アル・ヒタン(Wadi Al-Hitan)で発掘され、バシロサウルスに見られるような後肢と脚、つま先の残留が注目されています。

 ドルドンは、約4,000万年〜3,700万年前にテチス海を回遊していた原クジラ亜目の1種で、体長は5m〜7m、イルカに似た流線型の体形をしていましたが、退化した後肢(大腿骨のみ)を持っていました。おそらくは、現在のクジラ類の祖先であろうと考えられています。

 またドルドンの子供の化石にバシロザウルスの歯型と思われる跡も残っているものもあり、ワディ・アル・ヒタン(ズーグロドン渓谷)はドルドンの出産場所で、バシロサウルスがドルドンの子どもを襲っていたのではないかとも考えられているようです。

 クジラ目−ムカシクジラ亜目(原クジラ亜目)−ドルドン科

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 23:41│Comments(0)新生代
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