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2019年06月19日

漢詩(33)− 曹操(1)- 歩出夏門行


  漢詩(33)− 曹操(1)- 歩出夏門行

    太宰治(1909〜1948) 1946年、銀座のBAR「ルパン」にて(林忠彦氏撮影)

  桜桃忌
  昭和23年6月19日、作家太宰治が戦争未亡人の愛人山崎富栄と東京三鷹の玉川上水に入水して、その遺体が発見された日で、その日は太宰の誕生日でもあったことから、「桜桃忌」と呼ばれるようになった。「桜桃忌」の名前は桜桃の時期であることと晩年の作品『桜桃』に因むもので、この日は三鷹市の禅林寺で供養が行われている。

  (旧暦5月17日)

  『歩出夏門行』は、後漢(25〜220)の末期、建安十二年(207)の秋八月、後の魏の武帝曹操(155〜220)が、宿敵袁氏に味方する蹋頓(?〜207)ら烏桓族二十数万を北方の白狼山(遼寧省カラチン左翼モンゴル族自治県)で破った時に作ったものとされています。

  『歩出夏門行』は、(艶)、(觀滄海)、(冬十月)、(土不同)、(龜雖壽)からなり、(艶)はこの組詩の原因、背景、心情が書かれた序言にあたるとされています。

  (艶)

  雲行雨步             雲を行き雨を步み
  超越九江之皐      九江(江西省)之皐(かう:岸辺)を超越す
  臨觀異同             臨みて異同を觀る
  心意懷遊豫         心意は遊豫(いうよ:ためらい)を懷(いだ)く
  不知當復何從      知らず復た何に從ふか
  經過至我碣石      經過して我 碣石(けつせき:河北省東境の山)に至り
  心惆悵我東海      心は惆悵(ちうちやう)し 我 東海(東海郡)に

    漢詩(33)− 曹操(1)- 歩出夏門行


    『南屏山昇月』(月岡芳年『月百姿』)  赤壁を前にする曹操


  曹操は当初、南征して荊州(湖北省一帯)の劉表(142〜208)を伐つか、それとも北伐して烏桓を討つかで心が揺れていたようです。
  曹操の部下も、南方の劉表を伐つか北方の烏桓を討つかで意見が分かれていました。
 
  曹操が北方の烏桓を討てば、南方の劉表が機に乗じて劉備(161〜223)に曹操の拠点許昌(河南省)を攻撃させる恐れがあり、南方荊州の劉表を伐てば、烏桓が機に乗じて反撃してくるだろうと危惧されていました。

  結局、曹操は軍師郭嘉(170〜207)の進言を入れて、北方烏桓の北西に出陣します。

  將北征三郡烏丸、諸將皆曰、「袁尚、亡虜耳、夷狄貪而無親、豈能爲尚用。今深入征之、劉備必說劉表以襲許。萬一為變、事不可悔。」惟郭嘉策表必不能任備、勸公行。
  《三國志 魏書 武帝紀 建安十二年 》


  將に三郡(漁陽郡、右北平郡、雁門郡)の烏丸(烏桓)を北征せんとするに、諸將皆曰く、「袁尚は亡虜(逃亡した捕虜)耳(のみ)、夷狄は貪すれども親む無し。豈(あに)尚(袁尚)の爲に能く用いん。今深く入りて之を征せば、劉備必ず劉表を說きて以て許(許昌)を襲わん。萬一變為らば、事悔むべからず。」と。
  惟だ郭嘉のみ策するに表(劉表)は必ず備(劉備)を任ずること能はず、公に行くを勸む。
  《嘉穂のフーケモン拙訳》


  夏五月、至無終。秋七月、大水、傍海道不通、田疇請爲郷導、公從之。引軍出盧龍塞、塞外道絕不通、乃壍山堙谷五百餘里、經白檀、歷平岡、涉鮮卑庭、東指柳城。未至二百里、虜乃知之。尚、熙與蹋頓、遼西單于樓班、右北平單于能臣抵之等、將數萬騎逆軍。八月、登白狼山、卒與虜遇、衆甚盛。公車重在後、被甲者少、左右皆懼。公登高、望虜陳不整、乃縱兵擊之、使張遼為先鋒、虜衆大崩、斬蹋頓及名王已下、胡、漢降者二十餘萬口。
  《三國志 魏書 武帝紀 建安十二年 》


    漢詩(33)− 曹操(1)- 歩出夏門行

    幽州略図

  夏五月、無終(天津市)に至る。秋七月、大水、傍の海道通ぜず、田疇(169〜214)郷導(道案内)の爲に請け、公(曹操)之に從ふ。軍を引ゐて盧龍塞を出ずるも、塞外の道は絕へて通ぜず、乃ち山を壍(ほ)り谷を堙(ふさ)ぐこと五百餘里、白檀(河北省)を經、平岡(内モンゴル自治区)を歷し、鮮卑の庭を涉り、東へ柳城(遼寧省朝陽市)を指す。

  未だ二百里に至らざるに、虜(胡虜)乃之を知る。尚(袁尚)、熙(袁熙)と蹋頓、遼西單于樓班、右北平單于能臣抵之等は、數萬騎の逆軍を將す。八月、白狼山に登り、卒與(突然)として虜に遇ふ。衆は甚だ盛なり。公(曹操)の車重は後に在り、甲(かぶと)を被(かぶ)る者は少く、左右皆懼(おそ)れり。公(曹操)は高み登り、虜の陳(陣列)の整はざるを望むや、乃ち縱兵(出兵)して之を擊ち、張遼をして先鋒と爲すや、虜衆は大いに崩れ、蹋頓及名王已下を斬り、胡、漢の降者は二十餘萬口(人)たり。
  《嘉穂のフーケモン拙訳》
   (觀滄海)

   東臨碣石      東に碣石(けつせき)を臨み
   以觀滄海      以て滄海を觀る
   水何淡淡      水何ら淡淡 
   山島竦峙      山島 竦峙(しようじ)して
   樹木叢生      樹木 叢生(そうせい)し
   百草豐茂      百草 豐茂(ほうも)す
   秋風蕭瑟      秋風 蕭瑟(せうしつ)し
   洪波湧起      洪波 湧起(ようき)す
   日月之行      日月 之れ行く
   若出其中      其の中(うち)より出づるが若し
   星漢燦爛      星漢 燦爛(さんらん)す
   若出其裏      其の裏(うち)より出づるが若し
   幸甚至哉      幸(かう)甚だ至れる哉
   歌以言志      歌ひて以て志を詠ず

  (冬十月)

  孟冬十月       孟冬(まうとう)十月
  北風徘徊       北風は徘徊し
  天氣蕭清       天氣は蕭清(せうせい)
  繁霜霏霏       繁霜 霏霏(ひひ)たり
  鵾雞晨鳴       鵾雞(こんけい)晨(あした)に鳴き
  鴻雁南飛       鴻雁 南に飛ぶ
  鷙鳥潛藏       鷙鳥(してう:猛禽)潛藏し
  熊羆窟栖       熊羆(ゆうひ)窟(あな)に栖(せい)す
  錢鎛停置       錢鎛(せんはく:農具)停め置き
  農收積場       農收 積場し
  逆旅整設       逆旅(宿)を整設して
  以通賈商       以て賈商を通ず
  幸甚至哉       幸(かう)甚だ至れる哉
  歌以詠志       歌ひて以て志を詠ず

  (土不同)

  鄉土不同       郷土同じからず
  河朔隆寒       河朔 隆寒たり
  流澌浮漂       流澌(りうし)浮漂し
  舟船行難       舟船 行き難し
  錐不入地       錐は地に入らず
  蘴籟深奧       蘴籟 深奥す
  水竭不流       水は竭し流れず
  冰堅可蹈       冰堅を蹈む可し
  士隱者貧       士隠者は貧しく
  勇俠輕非       勇侠 輕非たり
  心常歎怨       心 常に歎き怨み
  戚戚多悲       戚戚たる悲しみ多し
  幸甚至哉       幸(かう)甚だ至れる哉
  歌以詠志       歌ひて以て志を詠ず

  (龜雖壽)

  神龜雖壽     神龜は壽なりと雖も 
  猶有竟時     猶ほ竟(をは)るの時有り
  騰蛇乘霧     騰蛇(とうだ)は霧に乘ぜども
  終爲土灰     終(つひ)に土灰(どくわい)と爲る
  老驥伏櫪     老驥(らうき)は櫪(れき:馬屋)に伏せども
  志在千里     志は千里に在り
  烈士暮年     烈士暮年に
  壯心不已     壯心已まず
  盈縮之期     盈縮(えいしゆく:星の出方の早晩)之期は
  不但在天     但に天のみに在らず
  養怡之福     養怡(やうい:和らぎを養う)之福は
  可得永年     永年を得べし
  幸甚至哉     幸(かう)甚だ至れる哉
  歌以詠志     歌ひて以て志を詠ず


  私も人生の区切りに遭遇し、また新たな道を見つけたところです。

  老驥(らうき)は櫪(れき:馬屋)に伏せども、志は千里に在り。
  烈士暮年に壯心已まず。

  これからは、若き日に学び、人生の大半を過ごした原子力の後始末のために、人生を懸けて行こうと思っています。

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