2008年04月29日
歳時記(16)-春(3)-残雪

残雪の鳥海山 庄内地方より望む
(旧暦 3月 24日)
堀河院御時、百首歌奉りけるに、残りの雪の心をよみ侍りける 権中納言国信
春日野の下萌えわたる草の上に つれなくみゆる春のあは雪 新古今和歌集 巻第一 春上10
帝都は桜の季節も過ぎ、心地よい風が若葉を揺らしていますが、蝦夷地札幌では円山の桜花が少し早めの満開を迎えているようです。
しかし、みちのくの山々には、まだ残雪が山肌に横たわり、寒々とした景色を見せています。
人はのぞみを喪(うしな)っても生きつづけてゆくのだ。
見えない地図のどこかに
あるいはまた遠い歳月のかなたに
ほの紅い蕾(つぼみ)を夢想して
凍てつく風の中に手をさしのべている。
手は泥にまみれ
頭脳はただ忘却の日をつづけてゆくとも
身内を流れるほのかな血のぬくみをたのみ
冬の草のように生きているのだ。
遠い残雪のような希みよ、光ってあれ。
たとえそれが何の光であろうとも
虚無の人をみちびく力とはなるであろう。
同じ地点に異なる星を仰ぐ者の
寂寥とそして精神の自由のみ
俺が人間であったことを思い出させてくれるのだ。
『きけわだつみのこえ』 田辺利宏 「雪の夜」
山の岩陰や木陰、裏庭や藪の陰などに消え残る雪には、去りゆく冬に名残を告げる趣がありますが、イギリスでは冬将軍の家来を次のように茶化している詩もあります。 続きを読む