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2012年12月06日

古生代(6)-カンブリア紀(2)−カンブリア爆発

 古生代(6)-カンブリア紀(2)−カンブリア爆発

 Charles Robert Darwin (1809 〜1882)

 (旧暦10月23日)

 Consequently, if my theory be true, it is indisputable that before the lowest Silurian stratum was deposited, long periods elapsed, as long as, or probably far longer than, the whole interval from the Silurian age to the present day; and that during these vast, yet quite unknown, periods of time, the world swarmed with living creatures.
『The Origin of Species』Chapter 9: On the Imperfection of the Geological Record by Charles Darwin

 従って、私の理論が真実であるならば、最下部のシルル紀(カンブリア系)の地層が堆積する前に、長い時間が経過していたことは明白である。それはシルル紀(カンブリア紀)から現代へ至る期間全体と同じか、あるいははるかに長かったかもしれず、この長大な時間の間に、世界は生物で満ちあふれていたはずである。
 『種の起源』 第9章 地質学的記録の不完全について チャールズ・ダーウィン


 よく知られた地質年代の区分であるカンブリア紀は、国際層序委員会 の“International Stratigraphic Chart”2010年版によれば、古生代(約5億4200万年前〜約2億5100万年前)の区分の最初に定義されている紀(period)であり、約5億4200万年前から約4億8830万年までの約5370万年間を指しています。

 カンブリア(Cambria)の名称の由来は、1835年にイギリスの地質学者アダム・セジウィック(1785〜1873)が、ウェールズ地方でこの時代の地層を調べたことに起因していますが、この名称は、ウェールズを表すケルト語の”Cumburia”から派生したローマ綴りに由来しています。
 古代ローマ人が、この地方を「カンブリア“Cambria”」と呼んでいたために、それが山脈名や地域名として使われることになったそうです。

 In the early 1830s, both men were working on the rocks of Wales, which were and are very difficult to work on due to extensive folding and faulting. However, they seemed to be older than most of the sedimentary rocks farther east. Murchison documented the presence of a distinctive set of fossils, one in which very few fish were found, but that included numerous different types of trilobites, brachiopods, and other such fossils.

 1830年代の初頭、両方の男(アダム・セジウイックとロデリック・マーチソン)はウェールズの岩石に取り組んでいましたが、それらは大規模な褶曲運動や断層運動の故に研究することは非常に困難なものでした。しかしながら、それらはより東方の多くの堆積岩より年代が古いように思われました。 マーチソンは化石の特有なグループ、ひとつは極めて少数の魚しか見いだされないが、しかし三葉虫や腕足類と他のそのような化石の多数の異なった類型を含んだものの存在を立証しました。

 Murchison named the system of rocks containing such fossils the Silurian, after the Silures, a Celtic tribe living in the Welsh Borderlands at the time of the Romans.
 
 マーチソンは、ローマ帝国の時代にウェールズの国境地帯に住んでいたケルト人の種族シルル族にちなんで、このような化石を含んでいる岩石の系統をシルリアンと命名しました。
 
 Sedgwick, who had been working in central Wales, proposed the existence of a separate system below the Silurian, which he named the Cambrian -- after Cambria, the Latin name for Wales.

 中央ウェールズで取り組んでいたセジウイックは、ウェールズのラテン語の名前カンブリアにちなんでカンブリアンと命名したシルリアンの下の別個の系統の存在を提唱しました。

 The two presented a joint paper in 1835, entitled "On the Silurian and Cambrian Systems, exhibiting the order in which the older sedimentary strata succeed each other in England and Wales."

 二人は1835年に、"On the Silurian and Cambrian Systems, exhibiting the order in which the older sedimentary strata succeed each other in England and Wales."という題名の共同の論文を提出しました。

 University of California Museum of Paleontology 「カリフォルニア大学古生物博物館」 Paleontology/Geologist biographies/Adam Sedgwick
  http://www.ucmp.berkeley.edu/history/sedgwick.html

 カンブリア紀の地層からは数多くの化石が見つかりますが、その下にある始生代(Archean eon、約40億年前〜約25億年前)や原生代(Proterozoic、約25億年前〜約5億4200万年前)の地層からはほとんど化石は見つからないので、先カンブリア時代(Precambrian period)全体に隠世代(Cryptozoic eon、隠れた生命)という名称が付けられ、カンブリア紀とそれに続く時代には、顕生代(Phanerozoic eon、目に見える生命)という名前が当てられました。

 古くから、カンブリア紀とそれ以前の始生代や原生代の地層との間の化石資料の差については謎とされてきました。
 原生代の化石群集は稀少で、発見されたものは20例のみ、放射年代測定法によりすべて6億5000万年ほど前の化石群集とされています。

 この中でも、オーストラリア南部フリンダーズ山脈の西部エディアカラ丘陵(Ediacara Hills)で大量に発見される生物化石群であるエディアカラ生物群(Ediacara biota)は、化石の保存状態や採集された動植物標本の多様性でも群を抜いています。
 この化石群は、1946年にオーストラリアの地質学者レッグ・スプリッグ(Reginald Claude Sprigg、1919〜1994)により発見されました。肉眼的に確認できる生物化石が多量に出るものとしてはもっとも古い時代のものであり、先カンブリア時代の生物相を示すものとして数少ないものでもあります。

 古生代(6)-カンブリア紀(2)−カンブリア爆発

 ① スプリッギナ(Spriggina)、④ カルニオディスクス(Charniodiscus)

 エディアカラ生物群は、クラゲや軟質サンゴ、蠕虫類(ぜんちゅうるい、ミミズや回虫など)と関連が有り、クラゲは15種類が確認されています。カルニオディスクス(Charniodiscus)に代表される軟質サンゴや明確な頭部と40の体節をもつ環形動物のスプリッギナ(Spriggina)などが挙げられます。
 チャールズ・ダーウィンは、その著『種の起源』第10章で、「新種がゆっくりと連続的に出現することについて」“On the slow and successive appearance of new species” ということを述べていますが、実際には、生命は「爆発」と呼ぶにふさわしいほど、カンブリア紀に突然、大増殖しています。

 これをカンブリア爆発(Cambrian Explosion)と呼び、古生代カンブリア紀、およそ5億4200万年前から5億3000万年前の間に突如として今日見られる動物の「門」(Division)が出揃ったとされています。

 現在、動物界の「門」は、脊索動物門(ホヤ、脊椎動物)、節足動物門(昆虫類、甲殻類)、刺胞動物門(クラゲ、サンゴ)等々、35門に分類されています。


  To the question why we do not find records of these vast primordial periods, I can give no satisfactory answer.
 …
 The several difficulties here discussed, namely our not finding in the successive formations infinitely numerous transitional links between the many species which now exist or have existed; the sudden manner in which whole groups of species appear in our European formations; the almost entire absence, as at present known, of fossiliferous formations beneath the Silurian strata, are all undoubtedly of the gravest nature.
 …
『The Origin of Species』Chapter 9: On the Imperfection of the Geological Record by Charles Darwin


 なぜ我々は、これらの長大な原始期間に(化石含有堆積物の)記録を見出さないのかという疑問に、私は満足な答えを与えることができない。
 (中略)
 ここで論じた幾つかの困難、すなわち

 1. 現在生存する種とかつて生存した種との間の多くの連結還に、過渡的形態を見出さないこと。
 2. 種の全ての群が、我々ヨーロッパの累層の中に突然現れること。 
 3. 現在知られているところでは、シルル紀の地層の下に化石に富んだ累層がほとんど全くないこと。 

 は全て疑いもなく最も深刻な性質のものである。
 (後略)   
 『種の起源』 第9章 地質学的記録の不完全について チャールズ・ダーウィン


 この謎を説明するために、以下のよう考えが提示されてきました。

 1. その時代の地層が、何らかの理由で欠失している。
 2. 多細胞動物の祖先が、化石になりにくい生活をしていた。
 3. 生物がごく小形で軟体性であったので化石にならなかった。


 従来、「カンブリア大爆発」は、カンブリア初期に一斉に生物の体制が出そろった現象と説明されてきました。これはアメリカ合衆国の古生物学者、進化生物学者、科学史家のスティーヴン・ジェイ・グールド(Stephen Jay Gould、1941〜2002)に依るところが大きいようです。
 グールドはベストセラーにもなった"Wonderful Life -The Burgess Shale and the Nature of the History-" 『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』(早川書房、1993)の中で、

 カンブリア初期が生物の多様性の最大地点で、その後は超えることがなかった。
 
 と主張しました。

 しかしその後の分子遺伝学の進歩から、遺伝子の爆発的多様化はカンブリア爆発のおよそ3億年前に起こっていたことが分かり、カンブリア初期に短期間に大進化が起こったわけではないとの考え方が主流となっています。
 すなわちカンブリア爆発は「化石記録」の爆発的多様化であり、必ずしも進化的な爆発を意味しない、と。
 
 カンブリア紀初期の大陸地域全体の面積は現在よりはるかに小さく、その後、火山弧と隣接する海盆が加わって海岸大地が拡大したため、大陸は1600万キロ平方メートル(約15%)まで成長しました。

 古生代(6)-カンブリア紀(2)−カンブリア爆発

 Late Cambrian 514Ma

 カンブリア紀後期には、ロディニアと呼ばれる初期の超大陸は深い地溝によって引き裂かれ、ローレンシア大陸(やがて北アメリカとなる)、バルティカ大陸(バルト海周辺地域)、シベリア大陸、アヴェロニア大陸、ゴンドワナ大陸の複数の塊に分かれて移動し始めました。

 北半球は巨大なパンタラッサ海が大部分を占め、大陸の大半は南半球にありました。
 ロディニア大陸が分裂し、そこから派生したトーンキスト海がバルティカ大陸とアヴェロニア大陸の間に突き出し、ローレンシア大陸とバルティカ大陸はイアペトス海によって隔てられました。また、アヴェロニア大陸がゴンドワナ大陸から離れるにつれてレーイック海が広がり、古アジア海洋は西側でシベリア大陸の海岸線を、東側ではゴンドワナ大陸の側縁を洗いました。

 カンブリア系の細分については、これまでそれぞれの地域ごとに独自で行われて正確な区分がなされてこなかったため、カンブリア系層序の国際小委員会は、大陸間での調和のとれた共通の基盤に立つために、古生物の消長や同位体比偏位といった層序学的に特徴ある層準の特定が行われ、これらの層準対比により、連続した国際標準階が導入され、それらが統にまとめられました。

 2005年には、4つの国際標準統と10の国際標準階が採用され、それらの約半分の階について、国際境界模式層序・位置が批准されました。
 
 カンブリア紀(約5370万年間)の国際境界模式層序・位置は古い順から、次の四つの統(Series)に分けられます。

 1. テレヌーブ統(Terreneuvian)  5億4200万年前〜5億2100万年前
 2. 第二統(Series 2)       5億2100万年前〜5億1000万年前
 3. 第三統(Series 3)       5億1000万年前〜4億9900万年前
 4. 芙蓉統(Furongian)      4億9900万年前〜4億8830万年前


 カンブリア系に含まれる階の国際境界模式層序・位置〔GSSP〕とそれらの場所及び一次対比指標(2008年の段階)

 1.  芙蓉統(furongian)     4億9900万年前〜4億8830万年前
 古生代(6)-カンブリア紀(2)−カンブリア爆発

 2.  第三統(Series 3)      5億1000万年前〜4億9900万年前
 古生代(6)-カンブリア紀(2)−カンブリア爆発

 3.  第二統(Series 2)      5億2100万年前〜5億1000万年前
 古生代(6)-カンブリア紀(2)−カンブリア爆発

 4.  テレヌーブ統(Terreneuvian) 5億4200万年前〜5億2100万年前
 古生代(6)-カンブリア紀(2)−カンブリア爆発

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 14:19│Comments(0)古生代
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