さぽろぐ

文化・芸能・学術  |札幌市中央区

ログインヘルプ


2008年05月05日

陶磁器(9)-成化の鬪彩

 陶磁器(9)-成化の鬪彩

 鬥彩纏枝蓮紋罐 明成化 通高8.3cm、口径4.3cm、足径6.5cm、蓋口径5.6cm

 (旧暦  4月 1日)

 明の第9代憲宗成化帝(在位1464~1487)の時代、「北虜南倭の禍」により国力は衰え、その国力が再興するのは、約100年の後の16世紀後半、第14代神宗万暦帝(在位1572~1620)の時代まで待たなければなりませんでした。

 北虜とは、北のモンゴル高原の東部にかけて居住するオイラト(Oirads, Oyirads)部族や元の崩壊により北に逃れたモンゴル(Tatars、韃靼)部族などによるたび重なる国境侵犯であり、南倭とは、明の東南沿岸部に侵攻して奪略し、猛威を振るった倭寇の騒乱のことを指します。

 第9代憲宗成化帝は、第6代英宗正統帝(在位1435~1449)の皇太子でしたが、正統14年(1449)、明領に侵攻してきたオイラトの首長エセンに対して、自ら親征を行った英宗正統帝が土木堡(河北省張家口市懐来県)の地でエセンに大敗を喫し、正統帝自身も捕虜となったため(土木の変)、後を継いだ叔父の第7代代宗景泰帝(在位1449~1457)によって廃され、紆余曲折を経て、15年後に16歳の若さで帝位についた皇帝でした。

 成化帝は、生まれたときから萬氏という女性が子守りとしてそばにいて、大きな影響を与えていました。帝が16歳で即位したとき、萬氏はすでに35歳になっていました。
 成化帝より19歳も年長であった萬氏は、女性でありながら、皇帝に扈従するときには、鎧をつけ、剣を佩びていました。

 憲宗、年十六にして即位、妃は已に三十有五、機警(きけい、物事の悟りがはやい)、善く帝の意を迎(むかえ)、遂に讒(そし)りて皇后吳氏を廢す。六宮(天子の後宮)に希みて進御(しんぎょ、天子のそばにはべる)を得、帝の遊幸每に、妃は戎服(軍服)にて前驅す。
 『明史 列傳 卷一百十三 列傳第一 后妃一 憲宗后妃 萬貴妃』


 成化2年(1466)正月、萬氏は成化帝の子を産み貴妃に封ぜられますが、その皇子は夭折してしまい、嫉妬深い萬貴妃は、ほかの妃が妊娠したのを知ると、薬を飲ませて流産させました。
 また成化帝は、神経質でひどい吃音で、対人恐怖症でもあり、臣下との接触は貴妃となった萬氏にすべて頼っていたとも云われています。
 萬貴妃、寵は後宮に冠たり、后(王皇后)之に處(お)ること淡如たり
 『明史 列傳 卷一百十三  列傳第一 后妃一 憲宗后妃 孝貞王皇后』


 この成化帝の時代に景徳鎮官窯の陶磁器では、鬪彩(豆彩)と呼ばれる色絵磁器の技術が確立しました。 
鬪彩(豆彩)という名称は後世になって名付けられたもので、鬪とは景徳鎮あたりの方言で「色を集めて一緒にする」という意味だそうですが、漢和辞典でも「集まる」という意味を載せています。

 鬪彩(豆彩)は、白磁に青花あるいは釉裏青(ゆうりせい)とよばれる酸化コバルトを主成分とした彩料で文様の輪郭線を描いて焼成し、その上に赤、緑、黄、紫などの釉薬を丁寧に塗り分けて再度低温で焼成したもので、輪郭線にはほんのりと暈しがあらわれて、濃淡も加わり、色の重なりに独特の柔らかさがあるのが特徴とされています。
 また、『中国陶磁の八千年』(矢部良明著、平凡社)によれば、「高台の内側は独特のむらが現われ、釉肌に起伏をつくり、釉切れの近くでは淡い黄橙色を呈してる」と解説されています。

 参考 豆彩龍文壺(とうさいりゅうもんつぼ) 「天」銘 東京国立博物館
 底裏中央に青花で「天」字銘が記されている。
 http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=B07&processId=02&colid=TG1002

 明の国力が盛んだったころには、東南アジア方面の発色のよい酸化コバルトを主成分とした釉薬が使われていましたが、成化の時代には雲南、浙江、江西などで産出した国内産の釉薬しか使えず、そのために発色は淡いが、かえって赤や緑の発色を際だたせるという効果が生まれました。

 成化の鬪彩には子供や花鳥の文様が多いようですが、成化帝は先に述べた萬貴妃のために、毎日1点ずつ珍しい品物を贈って機嫌を取り結んだと云われ、鬪彩の柔らかな感触は、萬貴妃のために考案されたものだとも云われています。

 明代の陶磁器のなかでは、この成化の鬪彩の人気が最も高いそうで、そのためか現代では贋物が一番多いことでも知られているようです。

あなたにおススメの記事

同じカテゴリー(陶磁器)の記事画像
陶磁器(14)−琺瑯彩(景徳鎮官窯)
陶磁器(13)−粉彩(景徳鎮官窯)
陶磁器(12)−郎窯紅(景徳鎮官窯)
陶磁器(11)-青瓷盤口鳳耳瓶(南宋/龍泉窯)
陶磁器(10)-五彩天馬蓋罐(明/嘉靖窯)
陶磁器(8)-青花龍文扁壺(明/永楽窯)
同じカテゴリー(陶磁器)の記事
 陶磁器(14)−琺瑯彩(景徳鎮官窯) (2012-01-30 18:41)
 陶磁器(13)−粉彩(景徳鎮官窯) (2012-01-04 15:21)
 陶磁器(12)−郎窯紅(景徳鎮官窯) (2010-08-29 16:49)
 陶磁器(11)-青瓷盤口鳳耳瓶(南宋/龍泉窯) (2009-08-12 13:10)
 陶磁器(10)-五彩天馬蓋罐(明/嘉靖窯) (2009-02-06 20:57)
 陶磁器(8)-青花龍文扁壺(明/永楽窯) (2007-12-31 22:55)
Posted by 嘉穂のフーケモン at 23:00│Comments(0)陶磁器
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
陶磁器(9)-成化の鬪彩
    コメント(0)