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2008年06月12日

物語(7)-太平記(2)-直冬上洛事付鬼丸鬼切事

 物語(7)-太平記(2)-直冬上洛事付鬼丸鬼切事

 鎌倉幕府初代執権 北条時政(1138〜1215)

 (旧暦  5月 9日)

 太平記巻32の7に、「直冬(ただふゆ)上洛の事付けたり鬼丸、鬼切の事」という段があり、源平累代の重宝として伝わる鬼丸、鬼切と云う二振りの太刀のことが記載されています。
 ここで鬼丸というのは「鬼丸國綱」のことで、後に「二つ銘則宗」、「大典太(おおでんた)光世」、「骨喰藤四郎」とともに足利将軍家の重宝として足利尊氏以後14代にわたって伝承され、最後の将軍第15代足利義昭(1537~1597)より豊臣秀吉に譲られています。
 また、「鬼丸國綱」は、「童子切安綱」、「大典太(おおでんた)光世」、「三日月宗近」、「数珠丸恒次」とともに、室町期以来「天下五剣」のうちの一つにも数えられています。

 抑(そもそも)此の鬼丸と申す太刀は、北条四郎時政天下を執って四海を鎮(しづ)めし後、長(たけ)一尺許(ばかり)なる小鬼、夜々(よなよな)時政が跡枕に来て、夢共なく幻(うつつ)共なく侵(をか)さんとする事度々(たびたび)也。
 修験の行者、加持(かぢ)すれ共休まず。陰陽寮(おんやうれう)封ずれ共立ち去らず。剰(あまつさ)へ是故(これゆゑ)に時政病を受けて、身心苦む事隙(ひま)なし。

 或夜の夢に、此の太刀独りの老翁に変じて告げて云く、「我常に汝を擁護(おうご)する故に彼の妖怪の者を退けんとすれば、汚れたる人の手を以て剣を採りたりしに依って、金精(さび)身より出て抜けんとすれ共叶はず。早く彼の妖怪の者を退けんとならば、清浄ならん人をして我が身の金清(さび)を拭(のご)ふべし。」と委(くはし)く教へて、老翁は又元の太刀に成りぬとぞ見えたりける。

 時政夙(つと)に起きて、老翁の夢に示しつる如く、或侍に水を浴びせて此の太刀の金精(さび)を拭(のご)はせ、未だ鞘にはさゝで、臥したる傍(そば)の柱にぞ立掛けたりける。冬の事なれば暖気を内に篭(こめ)んとて火鉢を近く取寄せたるに、居(すゑ)たる台を見れば、銀(しろがね)を以て長(たけ)一尺許(ばかり)なる小鬼を鋳て、眼には水晶を入れ、歯には金をぞ沈めたる。

 時政是れを見るに、此の間夜な夜な夢に来て我を悩ましつる鬼形(きぎやう)の者は、さも是れに似たりつる者哉(かな)と、面影ある心地して守り居たる処に、抜いて立てたりつる太刀俄(にはか)に倒れ懸りて、此の火鉢の台なる小鬼の頭(かうべ)をかけず切てぞ落したる。
 誠に此の鬼や化(け)して人を悩ましけん、時政忽(たちまち)に心地直(なほ)りて、其の後よりは鬼形の者夢にも曾(かつ)て見へざりけり。
 さてこそ此の太刀を鬼丸(おにまる)と名付けて、高時の代に至るまで身を放さず守りと成りて平氏の嫡家に伝りける。


 この伝説の名刀を鍛えたのは粟田口國綱という刀工で、鎌倉時代の初期に山城国粟田口に住し、通称は藤六、藤六郎などと呼ばれました。
 左近将監(しょうげん)、左衛門などに任じられ、のちに入道(僧体でありながら、在俗の者)したと伝えられています。
 第5代執権北条時頼(在職1246~1256)に召されて鎌倉で刀を打ったと云われていますが、太平記では北条時政(1138~1215)所有の刀と記述されています。

 代々、刀剣のとぎ(磨研)、ぬぐい(浄拭)、めきき(鑑定)の三業をもって家業とし、室町幕府にも仕えていた本阿弥(ほんなみ)宗家の本阿弥光忠が、江戸時代の享保4年11月、幕府の求めに応じて提出した名物(日本刀において、時代が古く容姿が美しくすぐれているもの)の刀剣解説書に『享保名物帳』があります。

 本阿弥家に伝来していた控えには、
 「右者(は)上ヲ始メ奉リ、諸家ノ銘刀取調ヘ仰セラルニ付キ、晨刻(しんこく:明け方の時刻)ヲ奉ジ家之記より相ヒ撰シ書ヲ上ニ奉ル控ヘ 享保四己亥年十一月 本阿弥三郎兵衛」
 の奥書があり、『銘刀傳家日記』と題されています。

 その中味は、健全な名物157振り、焼失の名物78振りの計235振りが簡略な解説と共に記載されていますが、その中巻に「鬼丸國綱」の名前も見えます。

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 21:46│Comments(0)物語
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