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2010年07月29日

歳時記(20)−夏(7)− canicular days

 歳時記(20)−夏(7)− canicular days
 Canis Major(おおいぬ座) as depicted in Urania's Mirror, a set of constellation cards published in London c.1825. Next to it are Lepus(うさぎ座) and Columba(はと座) (partly cut off). 
 ※ Urania’s Mirror is a boxed set of 32 constellation cards first published by Samuel Leigh of the Strand, London, in or shortly before 1825.

 (旧暦  6月18日) 
 
 ご無沙汰しとりますねんなあ!
 梅雨明けの暑さときたらかつてないひどさで、「今年の夏はいったいどないなってしまうねん?!」と不安に思っているのは、私「嘉穂のフーケモン」だけではありますまい。
 筑紫の国に住していたはるか昔も、クーラーのない暑さの中で喘いではいましたが、朝夕は若干涼しくて、お勉強は涼しい朝のうちに頑張っていたものでしたがねえ!

 O, who can hold a fire in his hand
 By thinking on the frosty Caucasus?
 Or cloy the hungry edge of appetite
 By bare imagination of a feast?
 Or wallow naked in December snow
 By thinking on fantastic summer’s heat?
 O, no! the apprehension of the good
 Gives but the greater feeling to the worse.
 − Shakespeare :Richard II. Ⅰ. ⅲ. 293-8

 あゝ、どんなにコーカサスの雪の山を思ひつゞけて見たからって、
 火を手掴みにすることは出來ますまい。
 山海の珍味に満腹したと想像したゞけで、
 刳(えぐ)るような飢(ひもじ)さが忍べますか?
 或は、夏の暑さを想ひ出して、それで嚴冬の雪の中に裸でころがってゐることが出來ますか?
 おゝ、決して!善いことを豫想すりや、惡いことがいよいよ鋭く感ぜられるばかりだ。
  『リチャード二世』(坪内逍遙訳)


 ‘fantastic’という言葉は英英辞書によれば、‘imaginary’あるいは‘strange and showing a lot of imagination’(Oxford Advanced Learner's Dictionary)と記述されており、元来「想像の世界のみに存在する」という意味だそうで、したがって‘fantastic summer’s heat’とは、「現実には到底ありえないほどの猛暑、ひどい夏の暑さ」を意味し、季語で云えば「炎暑」「炎熱」「炎天」となるのでしょうか。
 さて今回のお題の‘canicular days’‘canicular’とはラテン語の‘canicularis’(天狼星の)からきた語だそうで、Dog Star(Sirius)が太陽と同時に出没する期間を‘canicular days’或いは‘dog days’と云うそうです。
 この期間は1年のうちでも最も暑い時期で、イギリスではふつう7月3日から8月11日までを云うようです。
 ま、日本で云えば、土用(8月7日前後の立秋の前の18日間)の期間と重なる部分もありますね。

 そしてDog Star(Sirius)とはおおいぬ座(Canis Major)α星のことで、学名はα Canis Majoris、太陽以外では地球上から見える最も明るい恒星(a visual apparent magnitude of −1.46)として知られています。
 ギリシャ語の「焼き焦がすもの」「光り輝くもの」を意味する「セイリオス(Σείριος, Seirios)」に由来し、古来中国では天狼 (Tiānláng) と呼ばれてきました。

 歳時記(20)−夏(7)− canicular days

 Dog Star(Sirius)は凶星としても有名な星で、‘dog days’の異様な暑さもこの星のせいにされていますが、一般的にはこの期間にはイヌの気が狂い易いという迷信と関係づけられてきたようです。
 
 All the time of the canicular days they(dogs) are most ready to run mad.
  −P. Holland : Pliny’s Historie of the World, Ⅰ. 19

 土用の間中ずっとイヌはちょっとしたことですぐ気が狂ってしまう。
 
 また、この期間は新聞がいいニュースに事欠いてつまらない記事を載せる「発展や進歩のない期間」を指すこともあるようです。

 The present time of the year has been named the ‘silly season’.
   −Unknown : Punch ‘Article’, Sept. 9, 1871

 1年のこの期間は、「くだらぬ季節」と名付けられてきた。

 歳時記(20)−夏(7)− canicular days
 A simulated image of Sirius A and B using Celestia.

 In 1844 German astronomer Friedrich Bessel deduced from changes in the proper motion of Sirius that it had an unseen companion. Nearly two decades later, on January 31, 1862, American telescope-maker and astronomer Alvan Graham Clark first observed the faint companion, which is now called Sirius B, or affectionately "the Pup".
 (By Wikipedia)

 
 1844年、ドイツ人天文学者フリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセル(1784〜1846)は、シリウスの固有運動(proper motion)の変化から、伴星が存在することを推論しました。そしてほぼ20年後の1862年1月31日、アメリカの望遠鏡製作者で天文学者アルヴァン・グラハム・クラーク(1832〜1897)が、現在ではシリウスBあるいは親しみを込めて「子犬」と呼ばれているかすかな伴星を最初に観測しています。
 
 ま、そういうこっちゃね!

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 20:00│Comments(1)歳時記
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