日本(35)-旧帝国陸海軍の核兵器開発(7)

嘉穂のフーケモン

2008年10月28日 20:58

 

 Binary fission.

 (旧暦  9月30日)

 日本(34)-旧帝国陸海軍の核兵器開発(6)のつづき

 ベルリン郊外ダーレムのカイザー・ヴィルヘルム化学研究所1階の実験室で行われていたオットー・ハーンとフリッツ・シュトラースマンによるウラニウムへの中性子照射実験において、バリウムと思われる物質が生成された驚くべき現象について、リーゼ・マイトナーはクリスマス休暇でスウェーデンの寒村クングエルブに一緒に逗留していた甥の物理学者オットー・フリッシュ(Otto Robert Frisch、1904~1979)とともに、この問題の究明に取り組みました。

 これまでの照射実験では、陽子やヘリウムの核(アルファ粒子)以上の大きな塊がウラニウムの核からはぎ取られたことは観察されませんでした。

 「核力を考慮すれば、中性子の一撃でウラニウムの核が真っ二つに裂けると云うことは不可能だ。しかし、液滴モデルで考えれば、核の分裂も起こりうるかもしれない。」

 フリッシュは、ウェイトトレーニングのダンベルのような絵を描いてみました。そして、考察を続けました。・・・・・・

 そうして、リーゼ・マイトナーと甥のオットー・フリッシュは、二人で考えた核分裂に関する説明論文とそれを検証するフリッシュの実験報告論文を、世界で最も権威のあるイギリスの総合学術雑誌「Nature」に発表します。

 1. Disintegration of Uranium by Neutrons: a New Type of Nuclear Reaction
   中性子によるウラニウムの崩壊:新しいタイプの核反応
   Author: Lise Meitner and O.R. Frisch
   Lise Meitner ; Physical Institute, Academy of Sciences, Stockholm.
   O.R. Frisch  ; Institute of Theoretical Physics, University, Copenhagen.
   Source: Nature, vol.143, 239-240
   Year published: Feb. 11, 1939
 2. Physical Evidence for the Division of Heavy Nuclei under Neutron Bombardment
   中性子照射による重い原子核分裂の物理的証拠について
   Author: O.R. Frisch
   Source: Nature, vol.143, 276
   Year published: Feb. 11, 1939

  From chemical evidence, Hahn and Strassmann conclude that radioactive barium nuclei (atom number Z = 56) are produced when uranium (Z = 92) is bombarded by neutrons. It has been pointed out that this might be explained as a result of a "fission" of the uranium nucleus, similar to the division of a droplet into two. The energy liberated in such processes was estimated to be about 200 Mev, both from mass defect considerations and from the repulsion of the two nuclei resulting from the "fission" process.


 化学的な証拠から、オットー・ハーンとフリッツ・シュトラースマンは、ウラニウム(Z=92)が中性子によって照射されるとき、放射性バリウム核(原子番号 Z=56)が生成されると結論する。これは、ひとつの液滴の分割がふたつになるようなウラン核の「分裂」の結果として説明されうると指摘された。このような過程で開放されたエネルギーは、質量欠損の考察からも、「分裂」過程から生じるふたつの核の反発からも、およそ200Mevであると推定された。

 If this picture is correct, one would expect fast-moving nuclei of atomic number 40 to 50 and atomic weight 100 to 150, and up to 100 Mev energy, to emerge from a layer of uranium bombarded with neutrons.

 もしこの(実験)写真が正しいならば、中性子が照射されたウラニウムの層から、原子番号40から50、原子質量100から150、エネルギーが100 Mevまでの速いスピードで運動している核が飛び出す可能性がある。

 

 オットー・フリッシュ(Otto Robert Frisch、1904~1979)
 
 1939年1月15日の午後遅く、ウラニウムの核分裂の検証実験に成功していた オットー・フリッシュ(Otto Robert Frisch、1904~1979)は、朝方彼の地下実験室を訪ねて実験を見学したウィリアム・A・アーノルドというアメリカの生物学者を捉まえて尋ねました。

 ウィリアム・A・アーノルドは、カリフォルニアのホプキンス海洋研究所を休職してストックホルムで研究していましたが、オットー・フリッシュから、1個のバクテリアが2個に分かれる現象の呼び方を聞かれて、「Binary fission」 と答えます。
 単に「fission」と呼ぶことができるかと更に尋ねられて、「呼べる」と答えます。

 こうして、1939年1月16日月曜日の夜、オットー・フリッシュは二編の論文を書き上げて、翌朝、航空便でロンドンに送ります。

 さらにつづく
関連記事