天文(21)− メシエ天体(5)

嘉穂のフーケモン

2016年06月04日 20:21

    

    Pierre François André Méchain ( 1744 〜1804) was a French astronomer and surveyor who, with Charles Messier, was a major contributor to the early study of deep sky objects and comets.   

    (旧暦4月29日)

    天文(20)− メシエ天体(4)のつづき

    ご無沙汰致しております。
    やっとその気になっております。

    フランスの天文学者シャルル・メシエ(Charles Messier 、1730~1817)が彗星の探索に際して、彗星と紛らわしい103個の天体のカタログを作り、1781年から1784年にかけて発表したメシエ天体(Messier object)の内、愛称で呼ばれる29の天体について、最期のM82からM104 を紹介いたしましょう。

  

    Messier: M82. 
    (February 9, 1781) `Nebula without star, near the preceding [M81]; both are appearing in the same field of the telescope, this one is less distinct than the preceding; its light faint & [it is] elongated: at its extremity is a telescopic star. Seen at Berlin, by M. Bode, on December 31, 1774, & by M. Méchain in the month August 1779.'

 
    [観測日:1781年2月9日]
    星のない星雲で、一つ前の天体[M81]の近くにある。両方とも望遠鏡の同じ視野に見える。後者[M82]は前者[M81]ほどはっきり見えない。その光はぼんやりとして細長い。端っこに望遠鏡でしか見えない星がある。1774年12月31日にベルリンからボーデが、1779年8月の間にメシャンが観測している。

    M81とM82は、おおぐま座α星(Dubhe、天樞)の北西こぶしひとつ分にある4.6等星のおおぐま座24番星の西約2°のところにあります。おおぐま座α星(Dubhe,天樞)の学名はα Ursae Majoris(略称はα UMa)。ドゥーベ(Dubhe)はアラビア語で「熊」を意味する ドゥブ(Dubb)に由来しており、中国における呼称は、中国正史の天文志では天樞と記されています。

    


    


    北斗七星、所謂旋璣玉衡、以齊七政。杓攜龍角、衡殷南斗、魁枕參首。用昏建者杓。杓自華以西南。夜半建者衡。衡殷中州河濟之閒。平旦建者魁。魁海岱以東北也。斗爲帝車、運于中央、臨制四鄕。分陰陽、建四時、均五行、移節度、定諸紀、皆繋於斗。
    『史記 天官書第五』


    北斗の七星は、所謂(いはゆる)旋璣(せんき)玉衡(ぎよくかう)、以て七政を齊(ととの)ふるものなり。杓(しやく)は龍角に攜(つら)なり、衡(かう)は南斗に殷(あ)たり、魁(くわい)は參首に枕す。昏(くれ)を用(も)つて建する者は杓なり。杓は華より以西南なり。夜半に建する者は衡(かう)なり。衡(かう)は中州河濟之閒に殷(あ)たる。平旦に建する者は魁(くわい)。魁(くわい)は海岱に以東北なり。斗を帝車と爲し、中央に運(めぐ)り、四鄕(しきやう)を臨制す。陰陽を分かち、四時(しいじ)を建て、五行を均(ひと)しくし、節度を移し、諸紀を定むる、皆、斗に繋(かか)る。
 
    M82(NGC3034)は葉巻銀河(Cigar Galaxy)とも呼ばれ、葉巻型の本体からとがった髪の毛のような斜めに長いフィラメントが銀河中心から伸びていますが、これは「スーパーウィンド」といわれる電離した水素ガスが中心部から極方向に向かって吹き出している現象です。

    

    A mosaic image taken by the Hubble Telescope of Messier 82, combining exposures taken with four colored filters that capture starlight from visible and infrared wavelengths as well as the light from the glowing hydrogen filaments.


    


    銀河自体は大きさ5万5000光年であるのに対して、そのフィラメントは約3万4000光年もの長さがあります。
    約4000万年前にM81とM82は接近遭遇し、M82は巨大なM81の重力の影響を受けて変形し、星間ガスが短期間に大量にできるスターバーストが引き起こされているスターバースト銀河であると分類されています。

   Messier: M83. 
   (February 17, 1781) `Nebula without star, near the head of Centaurus: it appears as a faint & even glow, but it is difficult to see in the telescope, as the least light to illuminate the micrometer wires makes it disappear. One is only able with the greatest concentration to see it at all: it forms a triangle with two stars estimated of sixth & seventh magnitude: [its position was] determined from the stars i, k and h in the head of Centaurus: M. de la Caille has already determined this nebula. See the end of this Catalog.'


   [観測日:1781年2月17日]
   星のない星雲で、ケンタウルス座の頭の近くにある。ぼんやりと弱い光で、望遠鏡を使っても見るのがとても難しく、マイクロメターの十字線のせいで見えなくなってしまう。かなり集中しないと見ることが出来ない。6等星と7等星と思われる二つの星と対になって、三角形を形成する。その位置は、ケンタウロス座の頭にあるI,k,h星によって決められる。ニコラ=ルイ・ド・ラカーユ(Abbé Nicolas-Louis de Lacaille、1713〜1762)がすでにこの星雲を観測していた。このカタログの終わりの部分を見てほしい。


    


    M83(NGC5236)はうみへび座にある棒渦巻銀河で、その姿から南の風車銀河(Southern Pinwheel Galaxy)という別名でも呼ばれています。M83は、すばらしい正面向き(face on)の銀河です。
    M83の渦巻きの広大で複雑な構造は、M83の10分の1の質量の楕円銀河で、南西約2°のところにある小さなNGC5253との衝突による潮汐力でねじられたと考えられています。

    M83は星座の中で最も長くのびているうみへび座の中の余り目立たない場所にあり、簡単に見つかりません。ケンタウルス座のα,β,γ星の北西3.5°のところにこの7等の円盤銀河を探すと見つかります。

    


    


    M83をすでに観測していたニコラ=ルイ・ド・ラカーユ(Abbé Nicolas-Louis de Lacaille、1713〜1762)はフランスの天文学者で、1739年にフランスの子午線弧長の再測定を行ったことによりフランス科学アカデミー(Académie des sciences)に認められるところとなり、アカデミー委員とコレージュ・マザラン(the Collège Mazarin)の数学教授に任命されています。その後南天観測の希望を申し出て、1751年から喜望峰(the Cape of Good Hope)に滞在し、南天の恒星約10,000と42の星雲も観測しました。

    


    1757年、”Astronomiae Fundamenta Novissimus”を出版し、光行差(注1)と章動(注2)を修正した400の恒星のリストを発表しています。

    光行差(注1)(Aberration of light)
    天体を観測する際に観測者が移動しているために、天体の位置が移動方向にずれて見えるとき、そのずれを指す用語で、1728年、イギリスの天文学者ジェームズ・ブラッドリー(James Bradley, 1693〜1762)が発見しました。

    

    The apparent position of a star viewed from the Earth depends on the Earth's velocity. The effect is typically much smaller than illustrated.

    章動(注2)(Nutation)
    惑星の自転軸に見られる微小な運動の一種で、春分点の歳差を引き起こす潮汐力の強さが時間とともに変化するため、歳差の速度が一定でないことが原因で起こる成分である天文章動と、自由歳差運動による成分である自由章動から成ります。

    

    Rotation (green), precession (blue) and nutation in obliquity (red) of a planet.
    Messier: M87. 
    (March 18, 1781) `Nebula without star, in Virgo, below & very near a star of eighth magnitude, the star having the same Right Ascension as the nebula, & its Declination was 13d 42' 21" north. This nebula appears at the same luminosity as the two nebulae Nos. 84 and 86.'


    [観測日:1781年3月18日]
    乙女座の星のない星雲。8等星の下側のかなり近くにある。その星は星雲と同じ赤経にあり、赤緯は13度42分21秒である。この星雲は二つの星雲、84番と86番と同じ明るさである。


    

    

 
    巨大なエネルギーの天体であるM87は全質量が太陽質量の8000倍近くあり、大質量銀河として知られているもののひとつです。それはおとめ座銀河団で最も明るい楕円銀河であり、既知の全ての楕円銀河の中でも明るいうちのひとつとされています。

    M87はその核の領域から独特なジェットを放出しており、宇宙の発電所にたとえられています。ジェットはM87から5000光年程度広がり、M84を指しています。

    M87の核の領域には10億のもの高速で公転する恒星が群がっており、1994年には、M87の銀河の核には直径約120光年の領域中に太陽質量の30億倍のブラックホールが存在するであろうという証拠がハッブル宇宙望遠鏡の観測により発見されています。

    


    Messier: M97.
    (March 24, 1781) `Nebula in the great Bear [Ursa Major], near Beta: It is difficult to see, reports M. Méchain, especially when one illuminates the micrometer wires: its light is faint, without a star. M. Méchain saw it the first time on Feb 16, 1781, & the position is that given by him. Near this nebula he has seen another one, [the position of] which has not yet been determined [M108], and also a third which is near Gamma of the Great Bear [M109 near Gamma Ursae Majoris].' (diam. 2')


    [観測日:1781年3月24日]
    おおくま座の星雲。β星の近く。メシャンは、マイクロメーターの照準用十字線が光っているときには見るのが難しいと報告している。光度は暗く、星を含んでいない。メシャンが1781年2月16日に初めて観測した。のせてある座標は、彼の報告によるものである。彼はこの星雲の近くに別の星雲を見つけたが、3番の時のように位置は決められなかった。この星雲は、おおくま座γ星の近くである。


    

    


    M97は4インチ望遠鏡できれいに見える惑星状星雲のひとつで、「ふくろう」(Owl)という名前は、1848年にアイルランドの天文学者第3代ロス伯爵ウィリアム・パーソンズ(William Parsons, 3rd Earl of Rosse、1800〜1867)のスケッチから名付けられました。ロス伯爵は星雲や銀河の膨大な観測データを残しています。

    

    William Parsons, 3rd Earl of Rosse(1800〜1867)

    M97は、おおぐま座β星の南東2°に位置しています。おおぐま座β星は固有名メラク (Merak)、アラビア語で「腰」を意味するマラク (Marakk) に由来しており、青いA1型の主系列星に分類されています。

    主系列星A型は、スペクトル型により表面温度7,500〜10,000Kの白色の恒星に分類されています。

    なお余談ですが、第3代ロス伯爵ウィリアム・パーソンズは、1840年代にアイルランドのオファリー州バール(後にパーソンズタウン)の地に、口径72インチの天体望遠鏡を建設しました。この大望遠鏡はニュートン式の反射望遠鏡であり、「パーソンズタウンのリヴァイアサン(怪物)」と呼ばれ、1917年にウィルソン山天文台の口径100インチの望遠鏡ができるまで数十年にわたって世界最大の望遠鏡でした。

    

    Victorian picture of the "Leviathan of Parsonstown"

    Leviathan of Parsonstown is the unofficial name of the Rosse six-foot telescope. This is a historic reflecting telescope of 72 in (1.8 m) aperture, which was the largest telescope in the world from 1845 until the construction of the 100-inch (2.5 m) Hooker Telescope in 1917. The Rosse six-foot telescope was built by William Parsons, 3rd Earl of Rosse on his estate, Birr Castle, at Parsonstown (now Birr in County Offaly, Ireland).
 


    Messier: M101.
    (March 27, 1781) `Nebula without star, very obscure & pretty large, of 6 or 7 minutes [of arc] in diameter, between the left hand of Bootes & the tail of the great Bear [Ursa Major]. It is difficult to distinguish when one lits the [graticule] wires.' (diam. 7')

    [観測日:1781年3月27日]
    6分から7分にもおよぶ極めて大きく暗い、星のない星雲。うしかい座の左手とおおぐま座の尾の間にある。十字線を照らしたままだと見きわめるのがむつかしい。



    

    M101はM83(NGC5236)と同様に、すばらしい正面向き(face on)の銀河です。北斗七星の柄杓の柄の部分にある変光星アリオト(Alioth)とミザール(Mizar)を始点にして、南東に四つの5等星(おおぐま座81,83,84,86番星)がM101の方向に続いており、おおぐまのしっぽの端に当たる86番星の1.5°北東を見れば見つかります。

    


    On August 24, 2011, a Type Ia supernova, SN 2011fe, initially designated PTF 11kly, was discovered in M101. The supernova was visual magnitude 17.2 at discovery and reached magnitude 9.9 at its peak. This was the fourth supernova recorded in M101. The first, SN 1909A, was discovered by Max Wolf in January 1909 and reached magnitude 12.1. SN 1951H reached magnitude 17.5 in September 1951 and SN 1970G reached magnitude 11.5 in January 1970. (From Wikipedia)

    2011年8月24日、当初はPTF(Palomar Transient Factory)11kly(1万1千光年)を示すIa型超新星(SN 2011fe)が、M101で発見されました。
    この超新星は発見時には視等級+17.2等、最大等級+9.9等に達しました。これはM101では4番目の超新星と記録されています。
    最初のSN 1909A は1909年1月にドイツの天文学者マックス・ヴォルフ(Max Wolf、1863〜1932)によって発見され、+12.1等にまで達しました。 SN 1951Hは1951年9月には+17.5等、SN 1970Gは1970年1月に+11.5等に達しています。

    

    Maximilian Franz Joseph Cornelius Wolf(1863〜1932)

    2011年にM101に生じたIa型超新星のSN 2011feは、地球からの距離が近いにもかかわらず、爆発する白色矮星の伴星である赤色巨星が見つかっておらず、新しいタイプの超新星爆発であると考えられています。


    Messier: M104.
    メシアの記述はなし。

    

    M104は、ソンブレロ銀河(Sombrero Galaxy)とも呼ばれ、おとめ座α星のスピカ(Spica)の約 11° 西に位置しています。通称はメキシコで広く用いられる、つばの広い帽子であるソンブレロを横から見た姿に似ていることから名付けられています。月の約 1/5 の視直径がりますが、暗いため肉眼で見ることはできません。

    

    1913年、アメリカ合衆国の天文学者ヴェスト・スライファー(Vesto Melvin Slipher, 1875〜1969)は、M104のスペクトルを詳しく調べることによって、銀河がわれわれから秒速1,120㎞で遠ざかっていることに加え、その円盤部分は実際に回転していると結論づけました。

    ヴェスト・スライファー(Vesto Melvin Slipher, 1875〜1969)は、銀河の赤方偏移を発見し、アメリカ合衆国の天文学者エドウィン・ハッブル(Edwin Powell Hubble, 1889〜1953)らの宇宙膨張発見の手がかりとなりました。

    

    V.M. Slipher (1875〜1969)

    これまでこの銀河は非常に大きなバルジを持つ渦巻銀河だと考えられてきましたが、2012年、スピッツァー宇宙望遠鏡による観測結果から、楕円銀河の中に円盤が収まった複雑な構造を持つことが明らかとなりました。

つづく
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