さぽろぐ

文化・芸能・学術  |札幌市中央区

ログインヘルプ


2011年05月14日

数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 Simulated view of a black hole in front of the Large Magellanic Cloud. The ratio between the black hole Schwarzschild radius and the observer distance to it is 1:9. Of note is the gravitational lensing effect known as an Einstein ring, which produces a set of two fairly bright and large but highly distorted images of the Cloud as compared to its actual angular size.
 
 (旧暦4月12日)

 天体物理学の世界で話題になっているブラックホール (black hole) とは、きわめて強い重力のために物質だけでなく光さえも脱出できない天体として20世紀前半の一般相対性理論(Allgemeine Relativitätstheorie)の確立により理論的に予言され、20世紀後半のX線天文学の台頭により宇宙におけるその存在が確かめられました。

 現在では、「ブラックホールとは、多量のガスやエネルギーを放出する天体」として認識されていますが、「光さえも脱出できない天体から何で多量のガスやエネルギーを放出できるんかいな?」という素朴な疑問がつきまとい、夜も眠れなくなってしまいます。

 1916年、アインシュタインは「一般相対性原理」と「等価原理」の二つの原理のもとに、リーマン幾何学(Riemannsche Geometrie)を用いて一般相対性理論(Allgemeine Relativitätstheorie)を構築しました。

 そしてその重力方程式を下記の様に導きました。
 
 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

  face01一般相対性原理(Relativitätstheorie)
   物理法則は、すべての可能な座標系に対して同一の形式で成立する。
   Die Gesetze der Physik müssen so beschaffen sein, daß sie in bezug auf beliebig bewegte Bezugssysteme gelten.
 
  face02等価原理(Äquivalenzprinzip)
   すべての自然法則は、あらゆる座標系に対して成り立つような等式によって表現されるべきである。すなわち、任意の座標変換に対して共変(一般共変)な等式によって書き表されるべきである。
   Die allgemeinen Naturgesetze sind durch Gleichungen auszudrücken, die für alle Koordinatensysteme gelten, d.h. die beliebigen Substitutionen gegenüber kavariant (allgemein kovariant) sind.

 1916年、ドイツの物理学者、天体物理学者のカール・シュヴァルツシルト(Karl Schwarzschild、 1873~1916)は、球対称で自転せずかつ真空な時空を仮定してアインシュタインの重力方程式の厳密解を求めることに成功しました。
 40歳を超えていながら、第一次世界大戦でドイツ軍の砲兵技術将校として東部戦線に従軍中にアインシュタインの一般相対性理論を知り、戦地でその計算に取り組んでこの特殊解を導き出したと云われています。シュヴァルツシルトはその研究結果をアインシュタインに送りましたが、その半年後には天疱瘡(てんぽうそう、Pemphigus)という難治性の水疱性皮膚疾患で戦病死しています。

 彼が導き出した特殊解(シュヴァルツシルト解、Schwarzschild solution)は、重力が強く、光さえも抜け出せない時空の領域であるブラックホール(Schwarzes Loch )の存在を示唆していました。シュヴァルツシルト解には、その原点r=0に特異性があり、それがブラックホールであると認識されるようになったのは1960年代のことでした。

  ブラックホールという言葉を最初に用いたのは、プリンストン大学教授のジョン・A・ホイーラー(John Archibald Wheeler、1911〜2008)でした。
 彼は、1967年の秋にニューヨークで開かれたパルサー(パルス状の可視光線、電波、X線を発生する天体の総称)に関する会議で初めてその言葉を用い、同年12月のアメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)で行った講演の中で再び用いています。

 The term "black hole" was coined by John Wheeler , being first used in his public lecture "Our Universe: the Known and Unknown" on 29 December, 1967.

 一方、真空中を定常的に回転する軸対称な時空を仮定したアインシュタインの重力方程式の厳密解は、1963年にニュージーランドの数学者ロイ・カー(Roy Patrick kerr、1934〜 )によって発見されました。

 そこで、回転していないブラックホールを「シュヴァルツシルト-ブラックホール」と呼び、回転しているブラックホールには「カー-ブラックホール」という名前がつけられています。
 この2種類のブラックホールが天体物理学の現場に登場するブラックホールで、現実に存在しうるブラックホールの解は、他にはないことが証明されているそうです。
 
 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 Artist impression of a binary system with an accretion disk around a compact object being fed by material from the companion star.

 さて、ブラックホールには、「ブラックホール無毛定理(No-hair theorem)」という、世間のおっさん達が聞いたら怒り狂うような定理があります。それは、ブラックホールという言葉を最初に用いた、かのプリンストン大学教授ジョン・A・ホイーラーが、1971年の「Physics Today (1971)」での解説記事の中で述べた次のような言葉に由来しています。
 
「ブラックホールは毛がない (black holes have no hair) ので、互いに異なるブラックホールを区別できない」
 R. Ruffini and J.A. Wheeler, Physics Today (1971) 30

 The terminology that "black holes have no hair" in respect of various uniqueness and "no hair" results, was also due to John Wheeler and was introduced in an article co-authored with Remo Ruffini in 1971 .

 The no-hair theorem postulates that all black hole solutions of the Einstein-Maxwell equations of gravitation and electromagnetism in general relativity can be completely characterized by only three externally observable classical parameters: mass, electric charge, and angular momentum.
 All other information (for which "hair" is a metaphor) about the matter which formed a black hole or is falling into it, "disappears" behind the black-hole event horizon and is therefore permanently inaccessible to external observers.


 「ブラックホール無毛定理」は、宇宙物理学・一般相対性理論における概念の一つで、「重力と電磁気力のみを考慮した、アインシュタイン・マクスウェル系でのブラックホール解における観測可能な量は、質量、電荷、角運動量の3つの物理量だけである」というもの。その他のあらゆる情報は、ブラックホールの事象の地平線に落ち込むと消失し、外部から観測されない。

 では、前置きはこれくらいにしておいて、そろそろシュヴァルツシルトの特殊解を求めてみましょうかの。
 
 物理学では時空のひとつの点を表すのに、4つの座標を用います。
 
 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 ただし、添字μは、μ=0, 1, 2, 3 という4つの値をとります。
 物理法則がすべての可能な座標系に対して同一の形式で成立するためには、一般相対性理論(Allgemeine Relativitätstheorie)では、
 
 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)
 
 ここで、(1.1)と(1.2)を比較すると、

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)
 
 となり、

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)

 もちろん、続きまんがな!

 
 

あなたにおススメの記事

同じカテゴリー(数学セミナー)の記事画像
数学セミナー(31)− ロバートソン・ウォーカー計量(1)
数学セミナー(30)− 調和座標
数学セミナー(29)—ガウスの定理、ストークスの定理
数学セミナー(28)ーテンソル密度
数学セミナー(27)ーシュヴァルツシルト解(3)
数学セミナー(26)ーシュヴァルツシルト解(2)
同じカテゴリー(数学セミナー)の記事
 数学セミナー(31)− ロバートソン・ウォーカー計量(1) (2017-10-17 20:53)
 数学セミナー(30)− 調和座標 (2014-04-05 07:29)
 数学セミナー(29)—ガウスの定理、ストークスの定理 (2013-07-11 15:49)
 数学セミナー(28)ーテンソル密度 (2012-11-11 21:59)
 数学セミナー(27)ーシュヴァルツシルト解(3) (2011-11-23 22:20)
 数学セミナー(26)ーシュヴァルツシルト解(2) (2011-06-05 14:34)
Posted by 嘉穂のフーケモン at 22:22│Comments(0)数学セミナー
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)
    コメント(0)