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2007年12月09日

日本(29)-旧帝国陸海軍の核兵器開発(1)

 日本(29)-旧帝国陸海軍の核兵器開発(1)

 An induced nuclear fission event from Wikipedia.
 A slow-moving neutron is absorbed by the nucleus of a uranium-235 atom, which in turn splits into fast-moving lighter elements (fission products) and free neutrons.


 核分裂反応(Nuclear fission)
 中性子を吸収したウラン(U)235が、クリプトン(Kr)92とバリウム(Ba)141に分裂した例をしめす。この分裂の際、平均2~3個の高速中性子が放出されるが、この中性子が別のウラン(U)235に再び吸収され、新たな核分裂反応を引き起こすことを核分裂連鎖反応(Nuclear chain reaction)という。
 
 この連鎖反応をゆっくりと進行させ、持続的にエネルギーを取り出すのが原子炉であり、この連鎖反応を高速で進行させ、膨大なエネルギーを一瞬のうちに取り出すのが原子爆弾である。


 (旧暦 10月30日)

 漱石忌 小説家夏目漱石の大正5年(1916)年の忌日。

 阿川弘之氏の「軍艦長門の生涯」という小説のなかで、昭和17年(1942)2月23日に行われた柱島泊地(広島湾内にある柱島付近に設けられていた艦艇停泊地)における旗艦「大和」での聯合艦隊図上演習の模様が描かれています。

 4日間にわたる図上演習中には各種の分科会、研究会も開かれましたが、電探(レーダー)試験研究の委員会において、当時の海軍技術研究所所員で電波物理研究会委員であった伊藤庸二造兵中佐の注目すべき発言が紹介されています。

 伊藤庸二造兵中佐(1901~1955)は東京帝国大学工学部電気工学科出身の技術士官で、大尉の初年に無線研究のため2年半ドイツに留学し、八木・宇田アンテナで有名な東北帝国大学教授八木秀次博士(1886~1976)の紹介を受けて、外部磁化による強磁性体の磁化が断続的に増える「バルクハウゼン効果」を発見したドレスデン工科大学のバルクハウゼン教授(1881~1956)に師事し、磁電管の研究で日独両方の博士号を取得した人物です。
 
 伊藤中佐はたびたび欧州に派遣され、4ヶ月前の太平洋戦争開戦直前の昭和16年(1941)10月に帰国したばかりでした。

 紹介されて立ち上がると、電探の現状について一応の説明をし、質疑に答えたあと、
 「実は、ドイツならびに米英で着目されておる新兵器として、レーダーより尚恐るべきものがあります」
と、当面の問題とちがうことを言い出した。
 「それは、ウラニウム235のセパレーションであります。独英米においては、これに関する基礎研究が、ある程度進んでおるもののようで、もしこのセパレーションに成功すると、1グラムのウランから10の20乗のカロリーのエネルギーが発生いたします。一と握りのウランがあれば、サイパンやパラオの基地など、一ペんにぶちこわされてしまう。目下、理論的にも技術的にも、セパレーションの先鞭はドイツがつけておりまして、兵器としての開発使用はおそらく枢軸側が先になり、米英はあとになると予測されますので、そう心配は要らないと思いますけれども、今後の研究課題として、注目すべく、警戒すべきものであることはまちがいありません」
 全員初耳で、これについては誰も意見の出しようがなく、ただ黙って聞いていた。

 (中略)

 呉工廠長渋谷隆太郎中将は、大和での伊藤庸二造兵中佐の発言を気味悪く感じ、その後長岡半太郎博士に会う機会があったので、
「ウラニウム235のセパレーションで、実用可能の原子力兵器が作れるものですか? 作れるとすれば、その時間的見通しはどうですか?」
と聞いてみた。長岡半太郎は、明治三十四年、世界に先がけて原子模型を発表したその道の権威で、大阪帝国大学の初代総長をつとめた物理学者であった。
「理論としては充分可能だが、二年や三年では到底兵器にはなりますまい」
と、長岡博士は答えた。
 阿川弘之 「軍艦長門の生涯」より


 原子爆弾(Atomic bomb)や原子炉(Nuclear reactor)の基礎理論となる核分裂の連鎖反応(Nuclear chain reaction)は、ハンガリー生まれのユダヤ人物理学者レオ・シラード (Leó Szilárd, 1898~1964)のふとした発想から生まれました。

 日本(29)-旧帝国陸海軍の核兵器開発(1)

 レオ・シラード (Leó Szilárd, 1898~1964)

 シラードは大正3年(1914)に発表されたイギリスのSF作家ハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells, 1866~1946)の空想科学小説〝The World Set Free〝「邦題 解放された世界」を読み、そこに描かれた架空の原子爆弾について認識していたようです。
 H. G. Wellsの科学小説〝The World Set Free〝「邦題 解放された世界」は、原子核反応による強力な爆弾を使用した世界戦争と、その戦後の世界政府誕生を描いた作品ですが、核反応による強力な爆弾は、原子爆弾を予言したものとされています。

 シラードはこの小説に触発されて核分裂の連鎖反応の可能性を予期し、実際にマンハッタン計画につながるアメリカの原子爆弾開発に大きな影響を与えることとなりました。

以下つづく

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 14:42│Comments(0)歴史/日本
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