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2007年12月02日

歳時記(15)-冬(4)-北風(Boreas)

 歳時記(15)-冬(4)-北風(Boreas) 
 
 Rape of Oreithyia by Boreas. Detail from an Apulian red-figure oinoche, 360 BC

 (旧暦 10月23日)

 吉永小百合先生が歌う、「♪ 北風吹きぬく 寒い朝も 心ひとつで 暖かくなる・・・」といった歌詞の「寒い朝」という歌がありましたが、まだ暗い寒い朝の寒稽古には辛いものがありましたね。
 私「嘉穂のフーケモン」の両耳が腫れ上がり餃子のようになってしまったのも、高校2年の冬の合宿の時でした。

 冬季に北から吹く乾燥した冷たい強風は、日本各地で「赤城おろし」、「伊吹おろし」、「六甲おろし」あるいは、「遠州のからっ風」、「上州のからっ風」などの名前をつけられ古くから有名ですが、歌の題名にもなっています。
 「六甲おろし」は『阪神タイガースの歌』の通称として有名ですが、「伊吹おろし」という歌も、かつては旧制第八高等学校(現名古屋大学)大正5年度寮歌としてよく知られていました。

 ギリシア神話では、冬を運んでくる冷たい北風の神ボリアス[Boreas]が有名で、英詩でも「北風」の意味に用いられています。

 ギリシヤ古典詩の影響を強く受けたイギリスの詩人ジョン・ミルトン(John Milton,1608~1674)の代表作である『失楽園』 Paradise Lost (1667) は、旧約聖書の『創世記』をテーマにした壮大な叙事詩ですが、第十話695行~705行にはボリアスを初めとするギリシア神話の様々な風の神々が描かれています。

 Now from the North
 Of Norumbega, and the Samoed shoar
 Bursting thir brazen Dungeon, armd with ice
 And snow and haile and stormie gust and flaw,
 Boreas and Cæcias and Argestes loud
 And Thrascias rend the Woods and Seas upturn;
 With adverse blast up-turns them from the South
 Notus and Afer black with thundrous Clouds
 From Serraliona; thwart of these as fierce
 Forth rush the Levant and the Ponent Windes
 Eurus and Zephir with thir lateral noise,
 Sirocco, and Libecchio.
 ―J.Milton : Paradise Lost , Ⅹ. 695-705
 いましも、ノラムビーガの北と
 サモイードの海岸から、
 堅い土牢を打ち破り、
 氷、雪、あられ、荒れ狂う突風、疾風を武器として、
 ボリアス[北風]、カイキアス[東北風]、騒がしいアージェステス[北西風]
 そしてスラシアス[北々西風]が森を引き裂き、海をくつがえせば、
 反対の突風をともなって南からは、
 セラリオーナからの雷雲をともなった暗黒のノトス[南風]アフエル[南西風]が、
 森や海をくつがえす。
 同じくらい猛烈に妨害して吹き付ける 
 レヴァント[東]からとポテント[西]からの風であり
 横ざまに騒音をともなうエウロス[東風]ゼピュロス[西風]であり
 シロッコ[南東風]リベッキオ[南西風]である。
 (「嘉穂のフーケモン」拙訳)

 Norumbega. Roughly what is now northern New England and south eastern Canada.
 Samoed shoar. Northeastern Siberia.
 Serraliona. Sierra Leone on the west African coast.
 Levant and Potent. East and west.
 Sirocco, and Libecchio. Italian names for south-east and south-west winds.

 ギリシア神話における風の神アネモイ[Anemoi]には、そのほかゼピュロス[Zephyrus](西風)、ノトス[Notus](南風)、エウロス[Eurus](東風)などがありますが、詩文によく用いられるのはボリアス[Boreas]とゼピュロス[Zephyrus]です。
 ボリアス[Boreas]は「荒々しさ」を表し、ゼピュロス[Zephyrus]は「やさしさ」を象徴して、その性格は対照的です。

 Boreas is depicted as being very strong, with a violent temper to match. He was frequently shown as a winged old man with shaggy hair and beard, holding a conch shell and wearing a billowing cloak.

 ボリアス[Boreas]は非常に強く、乱暴な気性をもった神として描かれています。ボリアス[Boreas]はしばしば、もじゃもじゃの髪とひげを生やし、ほら貝を持ち風にうねる外套をまとった、翼のある老人として描かれています。

 Boreas was also said to have kidnapped Oreithyia, an Athenian princess, from the River Illissus. Boreas had taken a fancy to Oreithyia, and had initially pleaded for her favours, hoping to persuade her. When this failed, he reverted to his usual temper and abducted her as she danced on the banks of the Illissus. Boreas swept Oreithyia up in a cloud of wind and took her to Thrace, and with her, Boreas fathered two sons—the Boreads, Zetes and Calais—and two daughters—Chione and Cleopatra.
 
 ボリアス[Boreas]はまた、イリソス川からアテナイの王女オレイティアを略奪したとも伝えられています。オレイティアに魅せられたボリアス[Boreas]は、最初は彼女の好意を得ようと口説いていましたが、この試みが失敗に終わると、ボリアス[Boreas]は元々の気性に戻り、イリソス川の川岸で踊っていたオレイテュイアを略奪しました。ボリアス[Boreas]は風でオレイテュイアを雲の上に吹き上げてトラキアまで連れ去り、彼女との間に二人の息子ゼテスとカライスおよび二人の娘キオネとクレオパトラをもうけました。

 まったく、とんでもない奴でございます。

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 14:36│Comments(0)歳時記
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