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2006年09月11日

パイポの煙(30)−震は四知を畏る

 パイポの煙(30)−震は四知を畏る

 明の定陵出土の金冠

 (旧暦閏-7月19日)

 このところ、企業や公職に就くひとのモラルが喧しく云われていますが、「見つからなければ何をやっても良い」という風潮や、本来高いモラルを持って社会に貢献して行くべき企業が、自社の利益のみを優先し、逆に社会に多大な不安と迷惑を与えているという実態に強い怒りを覚えるのは、私「嘉穂のフーケモン」だけではありますまい。

 とは言え、「自らを律していくことの難しさ」もまた人の世の常とも云うべきものでしょうか。小さく云えば、生活習慣病なども、自らを律していくことによりかなり改善されるやにも聞いています。

 はるか昔の中国の後漢(東漢:25〜225)の初期、弘農郡華陰県(陝西省渭南市)出身の軍事担当宰相である太尉に楊震(54〜124)という人がいました。

 楊震(字は伯起)は少年の頃から学問を好み、太常(宗廟禮儀を司る官)の桓郁から欧陽氏に伝わる、堯舜から夏・殷・周の帝王の言行録を整理した演説集である欧陽尚書(書経)を教授され、経書(儒家経典)に明るく、博覧強記で、内容を窮め尽くさない物は有りませんでした。

 この為、当時の儒者たちは、「関西(函谷関以西の地)の孔子楊伯起」と称えていましたが、数十年の間、州郡の役人が丁重に招いても出仕しませんでした。

 楊震は年五十で州郡に仕え始めました。

 大將軍鄧隲(とうかく)其の賢なるを聞き而して之を辟し(召し)、茂才(秀才:後漢の光武帝の諱である秀の字を避けたため)に舉ぐる。四たび(4回目の出世で)荊州刺史に遷(うつ)る。

 東莱(荊州東莱郡:山東省萊州市)太守として郡に之くに當(あ)たり、道、昌邑(兗州山陽郡昌邑県:山東省昌邑市)を經るに、故舉ぐる所の荊州茂才王密、昌邑の令と為りて謁見す。
 夜に至り、金十斤を懷にして以て震に遺(おく)る。震曰く、「故人君を知る。君故人を知らざるは何ぞや」と。密曰く、「暮夜知る者無し」と。震曰く、「天知り、神知り、我知り、子知る。何ぞ知るもの無しと謂はんや」と。密愧ぢて出づ。
 『後漢書』卷五十四 《楊震傳》 第四十四


 東莱郡へ向かう途中に立ち寄った昌邑と云う街の令(地方長官)王密は、かつて楊震が荊州刺史だった時に茂才(秀才)に推挙した人物でした。

 王密は、恩義のある楊震が自分の任地に来ていると知り、挨拶に来ました。そして夜になり、懐から黄金十斤(約6㎏)を取り出して楊震に遺(おく)りました。
すると、楊震は言いました。
 「私は貴方を知っているが、貴方が私のことを知らないとはどういう事か。」
 王密は言いました。「夜なので知る人はいませんよ」と。
 楊震は言いました。
 「天が知っているし、神(神仙の神)が知っている。私が知っているし、貴方も知っている。知る者が居ないなどとはどうして言えようか」と。 ・・・・


 性公廉にして、私謁を受けず。子孫蔬食し歩行す。故旧或ひは為に産業を開かしめんと欲す。震肯んぜずして曰く、「後世をして清白吏の子孫たりと称せしめん。此を以て之に遺(おく)る、亦厚からずや」と。

 楊震は、公正潔白で私的に人と会ったりしませんでした。
 また、その子孫はいつも粗末な食事を取り、馬車に乗らず歩いていました。そこで、旧知のひとたちは事業を起こさせようとしましたが、楊震は首を縦に振らず、
「後世に清廉潔白な官吏の子孫と称されるために、このようなことを遺しているのだ。十分ではないか」と。

 その志、見習わなければなりますまい。

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 23:46│Comments(0)パイポの煙
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