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2006年02月16日

物語(5)−西行物語(2)

 物語(5)−西行物語(2)

 西行法師 菊池容齋筆

 (旧暦  1月19日)

 西行忌  西行法師は建久元年2月16日73歳で、河内国南葛城の弘川寺に円寂しました。建久元年2月16日は旧暦ですから、西洋暦に換算すると、ユリウス暦1190年3月23日にあたるようです。

 龍池山弘川(ひろかわ)寺は、第38代天智天皇(626〜671、在位668〜671)の四年、役行者によって開創された真言宗醍醐派の古刹で、金剛山地の葛城山(959m)の北西の麓に位置し、日本庭園と枯山水が美しい桜と紅葉の名所で、近鉄長野線の富田林駅が最寄りの駅になります。

 鳥羽法皇に仕えた北面の武士、佐藤義清が出家を遂げたのは、保延6年(1140)23歳のときでした。
 平安末期の左大臣藤原頼長(1120〜1156)が残した漢文体の日記『台記』の永治2年(1142)3月15日のくだりは、西行についての重要な基本的文献となっています。

 西行法師来りて曰く、一品経を行ふにより、両院以下、貴所皆、下し給ふなり。料紙の美悪を嫌はず、ただ自筆を用ゐるべしと。余、不軽を承諾す。また余、年を問ふ。答へて曰く、廿五なりと。去々年出家せり。廿三。そもそも西行は、もと兵衛尉義清なり。左衛門大夫康清の子。重代の勇士なるを以て法皇に仕へたり。俗時より心を仏道に入れ、家富み年若く、心愁ひ無きも、遂に以て遁世せり。人これを歎美せるなり。

 当時、西行は一品経の書写供養を発願し、鳥羽法皇、崇徳上皇両院をはじめ朝廷の有力者を歴訪し、頼長自身も西行の依頼に応じて不軽経(法華経常不軽菩薩品第二十)の書写を承諾していました。
 一品経の書写供養とは、法華経二十八品と開結無量義経、観普賢経を合わせて都合三十巻を、写経の際に多数の人が一品ずつ分けて書写し一巻ずつに仕立てた経巻で、一人で全てを書写する一筆経に対する語です。
 そして西行は、出家する前から「心を仏道に入れ」ており、「家富み年若く、心愁ひ無き」にもかかわらず出家したため、人々から「歎美」されたことが記録に残されています。
 
 また、『源平盛衰記』巻八「讃岐院事」には、さる高貴なる女人への「悲恋」説も記載されています。

 さても西行発心のおこりを尋ぬれば、源は恋ゆゑとぞ承る。申すも恐れある上臈女房を思ひ懸けまゐらせたりけるを、「あこぎの浦ぞ」と云ふ仰せを蒙りて思ひ切り、官位は春の夜見はてぬ夢と思ひ成り、楽栄は秋の夜の月、西へと准(なぞら)へて、有為の世の契を遁(のがれ)つゝ、無為の道にぞ入りにける。あこぎは歌の心なり。
 伊勢の海あこぎが浦に 引網も度重なれば人もこそしれ  
 と云ふ心は、彼れ阿漕の浦には神の誓ひにて、年に一度の外は網を引ずとかや。此の仰せを承りて、西行が読みける、
 思ひきや富士の高根に一夜ねて 雲の上なる月をみんとは  
 此歌の心を思ふには、一よの御契は有りけるにや、重ねて聞食(きこしめす)事の有りければこそ阿漕とは仰せけめ、情かりける事共也。


 これによれば、西行は申すも恐れある高貴の女人と深い仲になりましたが、「ただ一度だけ」という女人の仰せがあったために、重ねての逢瀬をあきらめて出家したとのことです。

 この西行の悲恋の相手は、権大納言藤原金実の女(むすめ)、鳥羽天皇の中宮侍賢門院璋子(1101〜1145)というのが今日一般に了解されている事だそうですが、多情の人とされた西行は、それだけ多感な感性の持ち主だったのでしょう。

 知らざりき 雲居のよそに見し月の かげを袂(たもと)に宿すべしとは (山家集617)

 おもかげの 忘らすまじき別れかな 名残を人の月にとどめて (山家集 621)


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Posted by 嘉穂のフーケモン at 21:39│Comments(0)物語
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