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2005年09月28日

書(11)−孫過庭−書譜

 書(11)−孫過庭−書譜

 書譜 孫過庭 [唐] 紙本墨書 一巻 台北故宮博物院 維基百科より  

 (旧暦  8月25日)
 
 古来、名書家と呼ばれる人にはそれぞれ「書論」を書き残した人が多く、中国東晋(317〜420)の書聖王羲之(307?〜365?)も以下のように書き残しています。

 「夫れ書は玄妙の技なり。若し通人志士に非ざれば学ぶも之に及ぶなし。書は須(すべか)らく思いを存すべし」
 
 書とは玄妙の技であり、その人の高潔な志を現し、字の形ではなく、その人の心を映すと

 また、「書を学ぶには、胸中に道義あるを要すべし。またこれを広むるに、聖哲の学をもってす」という言葉を残しています。
 書は単なる技術ではなく、人格を磨くことが必要であると言うことだと思います。

 さらに、「凡(およ)そ書は沈静を貴ぶ。意は筆前に在らしめ、字は心後に居らしめよ。未だ作らざるの初め、結思は成るなり」
 
 上手に書こうなどとは思わぬことだ。書の表現は、字の形を取る前に、既に定まっているのだから。

 数多残されている書論の中で、自筆の書が残されており、書を学ぶ人のお手本とされている書論の中に、唐代の書家孫過庭の「書譜」(台北故宮博物院蔵)があります。  
http://www.linkclub.or.jp/~qingxia/cpoem/shupu.html
 351行、3000字の書論ですが、草書の名人とされる「鐘張二王」つまり鐘繇(しょうよう:151〜230)、張芝(ちょうし:?〜192?)、王羲之(307?〜365?)、王獻之(おうけんし:344〜388)と共に最も珍重される墨跡の一つとされています。

 余志學之年(十五歳)に翰墨(筆と墨)に心を留め、鐘張(鐘繇、張芝)の餘烈を味わい、羲獻(王羲之、王獻之)の前規を挹(く)む。慮(おも)いを極め精を專(もっぱ)らにして時、二紀(24年)を逾(こ)ゆ。入木之術に乖(かい)有るも、臨池之志は間(あいだ)無し。

 私は十五の時に書に心を留め、鐘繇、張芝の書を味わい、王羲之、王獻之の規範を学んだ。思いを凝らし、精進して二十四年が経った。未だに入木の術には到らないが、臨池の志は絶やしたことがない。

 「入木之術」とは、墨が木簡の表面から三分(約9mm)まで滲み込んだという書聖王羲之の故事で、「臨池之志」とは、筆を洗う池が墨で真っ黒になったという後漢の草書の名人張芝の故事を指しており、共に書の道に励んだことを意味しています。

 孫過庭の「書譜」で述べる書の極意は、「自然之妙有るところと同じく、力運之能く成るものに非ず」、「詎(いやしく)も功は禮樂を定むるが若(ごと)く、妙は神仙に擬す」と。
 力によって成るものではなく、正しい禮樂(格式)と変幻自在な妙味を備え、筆が神仙と一体になる境地を理想としていました。

 北宋第8代皇帝徽宗(在位1100〜1125)の膨大な所蔵品の目録である『宣和(せんな)書譜』には、孫過庭の書に対する様々な賛辞と共に徽宗皇帝自身による「過庭の書は二王(王羲之、王獻之)を乱る(紛らわしい)」という記載が有りますが、それほどの書家でありながら生没年も、生まれた土地もその経歴も定かではありません。

 孫過庭の死後、唐の則天武后(624〜705)に使えた梓州射洪(四川省)の人であり、詩人でもあった陳子昂(661〜702)が墓誌銘を書きましたが、それは「不遇の人なり」という書き出しであったそうです。 

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 21:56│Comments(0)
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