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2005年05月26日

物語(2)−源平盛衰記(1)−菖蒲前(あやめのまへの)事

 物語(2)−源平盛衰記(1)−菖蒲前(あやめのまへの)事

 歌川広重 『名所江戸百景』 堀切の花菖蒲

 (旧暦  4月19日)

 五月雨(さみだれ)に 沼の石垣水こえて 何(いずれ)かあやめ引(ひき)ぞわづらふ
 (源三位頼政)

 
 旧暦では、4月から6月にかけての時節を夏としています。
 あやめぐさは、万葉集では夏の草花で12首詠み込まれていますが、現在のサトイモ科の多年草の菖蒲(しょうぶ)のことで、その独特の香りから邪気をはらうと考えられてきました。

 現在、ショウブという場合は、たいていハナショウブ(花菖蒲)のことを言います。学名はIris ensata、アヤメ科アヤメ属の花ですが、同属にアヤメ(学名:Iris sanguinea)、カキツバタ(学名:Iris laevigata)もあり、どれがどれだか素人にはさっぱりわかりません。

 全く分けが判らず、思わず「責任者呼んで来い!」と叫びたくなります。
 そのため、古来から、「いずれが菖蒲(アヤメ)か杜若(カキツバタ)」と云われ、「美しくて甲乙付けがたいこと」を言う時の形容句として用いられてきましたが、この頃では、「どっちもどっち」の意味で使われているのではないかと愚考致しております。
 さて、鎌倉時代から南北朝時代にかけて成立したとされ、48巻からなる軍記物語に『源平衰盛記』があります。『平家物語』を増補改修した異本の一種と見られていますが、ま、平たく云えば、「海賊版」でしょうか。

 紫宸殿に現れる、二条天皇を悩まし奉った頭が猿、胴が狸、手足が虎、尾が蛇という鵺(ぬえ)という怪物を退治して一躍有名になった平安時代の武将で歌人の源三位(げんさんみ)頼政(1104〜1180)にちなむエピソードが、巻16の6 「菖蒲前事」に記されています。

 ・・・鳥羽院御中に、菖蒲前とて世に勝たる美人あり。心の色深して、形人に越たりければ、君の御糸惜も類なかりけり。・・・・或時頼政菖蒲を一目見て後は、いつも其時の心地して忘るる事なかりければ常に文を遣しけれども、一筆一詞の返事もせず。頼政こりずまゝに、又遣し遣しなんどする程に、年も三年に成にけり。・・・

 頼政が鳥羽院の最愛のあやめの前に一目惚れしましたが、やがて鳥羽院の知るところとなり、頼政を試そうと五月五日の夕暮れに、あやめの前とそれに似た女人二人に同じ姿をさせて、「頼政よ其中に忍申す菖蒲侍る也、朕(ちん)占思召(おぼしめす)女也、有御免(ごめんあり)ぞ、相具して罷(まかり)出よ」との難題を出します。   

 困った頼政は、前記の歌を詠みますが、鳥羽院は感動のあまり、自らあやめの前の手を取って、頼政に賜ったと記されています。

 ・・御感の余に竜眼より御涙を流させ給ながら、御座を立たせ給て、女の手を御手に取て、引立おはしまし、是こそ菖蒲よ、疾く汝に給也とて、頼政に授させ給けり。是を賜て相具して、仙洞を罷(まかり)出ければ、上下男女歌の道を嗜(たしなま)ん者、尤(もっとも)かくこそ徳をば顕すべけれと、各感涙を流けり。

 源頼政は、源氏出身でありながら平氏政権下で異例の公卿に列したことから、源三位頼政と称されました。
 治承4年(1180)4月、源頼政は後白河天皇の第2皇子以仁王から平家追討の令旨をうけ、5月に挙兵しましたが、宇治川の戦いで衆寡敵せず平知盛の平家軍2万に破れ、以仁王、頼政の長男仲綱らが討死、頼政は平等院で自害しました。
 
 享年77歳。波瀾万丈の一生でした。

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 12:51│Comments(0)物語
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