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2012年12月27日

天文(16)−重力レンズ効果

 天文(16)−重力レンズ効果

 Actual gravitational lensing effects as observed by the Hubble Space Telescope in Abell 1689 – Enlarge the image to see the lensing arcs.
 ハッブル宇宙望遠鏡で観測された、銀河団 Abell 1689 によって作られた重力レンズ。遠方の多数の銀河の像が円弧状に引き伸ばされて見えている。
 
 (旧暦11月15日)
  
 恒星や銀河などが発する光が途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象は重力レンズ効果(Gravitationslinse)と呼ばれ、光は重力にひきつけられて曲がるのではなく、重い物体によってゆがめられた時空を進むために曲がると解説されています。

 これは、アインシュタインの一般相対性理論(Allgemeine Relativitätstheorie)から予測された物理的事象で、たとえば太陽の縁をかすめる光は、最初の方向から1.75秒角曲がることが計算されていました。

 ニュートン力学では重力とは質量と質量の間に働く力だと解釈されていたので、質量を持たないはずの光が重力に引き寄せられて曲がるという現象はなかなか理解されませんでした。 

 そしてこれを確かめるためには、太陽のまわりの光が明るく見える日食のときに観測する必要があると考えられていました。

 第一次世界大戦集結直前の1919年5月29日、天体物理学者アーサー・エディントン(1882〜1944)率いるイギリス観測隊は、アフリカ西海岸沖、大西洋上にあるプリンシペ島で皆既日食を観測し、太陽周辺に見える星の位置が一般相対論の予測通りにずれていることを確かめたとされています。

 天文(16)−重力レンズ効果

 One of Eddington's photographs of the total solar eclipse of 29 May 1919, presented in his 1920 paper announcing its success, confirming Einstein's theory that light "bends".
 エディントンが撮影した1919年の皆既日食の写真。位置測定に用いた恒星が2本の線でマークされている。

 翌年発表されたエディントンの観察結果は、アインシュタインの相対性理論の予測を証明したとされ、またニュートン学説信奉者に一般相対性理論の決定的証明として是認されました。

 さらにこのニュースは大きな話題として世界中の新聞で報道され、アインシュタインと相対性理論の名は、一躍世界中に知られるようになりました。

 アインシュタイン自身は、1916年に発表した『一般相対性理論の基礎』
 Die Grundlage der allgemeinen Relativitätstheorie. In: Annalen der Physik. Ser.4, 49(1916), Seite . 769〜822
の中で、次のように述べています。

 天文(16)−重力レンズ効果

 §22. 静的重力場内にある物指と時計、光線の弯曲、惑星軌道の近日点移動

  次に静的重力場内での光線の進路を調べてみよう。特殊相対性理論によれば光の速度は


 天文(16)−重力レンズ効果

によって与えられる。したがって、一般相対性理論では

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によって与えられる。いま光の進む方向、すなわち

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の比の値が与えられると、(73)によって

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は与えられる。また、光の速さ

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もユークリッド幾何学の意味において決められる。

 そこで

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が定数でないときは、座標系から見て光線が弯曲して見えることは容易にわかるであろう。いまnは、光の進行方向に垂直な方向を示すとすれば[( γ, n )平面で考えて]、ハイゲンスの原理により、光線は曲率ー∂γ/∂nをもつことになる。

 天文(16)−重力レンズ効果

 そこで、質量Mの物体から距離Δだけ離れた所を通過する光線が受ける曲率を求めてみよう。いま、座標系を図のように選ぶと、光線が受ける弯曲の総計Bは(原点に向かって凹、つまり、図で光線が左の方に弯曲する時は を正とする)、ここに考えている近似では次式によって与えられる。

 天文(16)−重力レンズ効果

一方、(73)および(70)から

 天文(16)−重力レンズ効果

これを上のBの式に代入して計算すると

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となる。そこで太陽のそばを通過する光線は1.7″の弯曲を受ける。また、木星のふちを通る光では0.02″となる。
 注1)
 特殊相対性理論は、一般相対性理論において

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を下記の定数(4)に等しいとおいた特別な場合です。

 天文(16)−重力レンズ効果

 このことは、重力の作用を完全に無視することに相当します。これに対して、

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が定数(4)の値からごくわずかずれている場合を考えると、現実に対して特殊相対性理論よりもよりよい近似を得ることになり、これを第1の近似と呼ぶことにします。

 さらに、いま考えている時空内の領域において、座標系を適当に選んだ際には、空間的に無限遠点に近づけば、

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の値は(4)の値にいくらでも近づくものとします。すなわち、座標系の原点から空間的に有限な距離にある物質によって生み出された重力場だけを考えるものとします。

 座標系の原点に重力場の源となる質点があるとすると、これに対する球対象な解(重力場の方程式の解)は、第1近似では

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となります。ただし

 天文(16)−重力レンズ効果


 注2)
 原点を中心とする円周の接線方向の長さは

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とおくと

 天文(16)−重力レンズ効果

が成り立ちます。

 天文(16)−重力レンズ効果

  次に、静的重力場の中に静止している標準時計の1周期に対しては

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が成り立ちます。したがって

 天文(16)−重力レンズ効果

 天文(16)−重力レンズ効果

 この赤字の部分が、ようわからんなあ?
 また、

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も同様に何でやねん!

 注3)

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 したがって

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さて、重力レンズの観測自体はきわめて困難でしたが、近年の観測技術の向上にともない、現在では天文学における垂要な観測手法の1つとしてさまざまな研究に応用されています。
 東京大学大学院理学系研究科の須藤靖先生によれば、以下のような研究に応用されているそうです。

 1. ダークマタ一分布マッピング
  強い重力レンズあるいは弱い重力レンズを用いて観測を再現するようなレンズ天体の質量分布を構築することで、直接は観測できないダークマタ一分布をマッピングできる。


 天文(16)−重力レンズ効果
 3D map of the large-scale distribution of dark matter, reconstructed from measurements of weak gravitational lensing with the Hubble Space Telescope.

 2. 宇宙論パラメータ推定
  強い重力レンズを起こす確率は宇宙論パラメータ、特に宇宙定数の値に強く依存するため、観測されている強い重力レンズ現象の頻度を理論予言と比較することで、宇宙論パラメータを推定することができる。

 3. 宇宙の距離指標
  強い重力レンズによる多重像は異なる経路を通っているので、観測者までの到達時間も異なる。つまり、現在観測されている多重像は異なる時刻で見た同じ天体に対応している。天体の光度が時間変動を示す場合には、多重像間の到達時間差を推定することができ、これを理論と比較することで、宇宙の大きさを特徴づける唯一のパラメータであるハッブル定数を推定できる。

 4. 自然の望遠鏡
  重力レンズを受けた天体は,結果としてより明るく観測されるため、本来は暗くて観測が困難な遠方の天体であっても、重力レンズの効果のおかげで観測できるようになる。

 5. 銀河系内ダークマター候補天体探査
  マイクロレンズ現象を利用して銀河系内の ダークマター候補となる暗い天体(MAssive Compact Halo Object: MACHO)を探査することができる。1986年、プリンストン大学のポーダン・パチンスキーは、重力マイクロレンズ効果を用いて、我々の銀河系を満たしているかもしれない(10のマイナス6乗 〜100)倍の太陽質量のMACHOを検出する巧妙な方法を提案した。銀河系内のMACHO天体は静止しているわけではなく、平均的には200km/sec程度の速度でランダムに運動しており、それらが背景星と地球とを結ぶ線上(のごく近傍)を横切る際には、重力レンズを起こし、1カ月程度その星がより明るく輝いて見えるはずなので、その頻度から逆に、MACHO天体の存在量を推定できる。

 6. 太陽系外惑星探査
  重力マイクロレンズ効果はMACHO天体のみならず普通の星によっても引き起こされるので、その星が惑星を伴っている場合には、特徴的な光度時間変化を示す。 2010年1月時点で、この方法により10個程度の太陽系外惑星が発見されている。


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Posted by 嘉穂のフーケモン at 13:33│Comments(0)天文
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