2012年11月11日
数学セミナー(28)ーテンソル密度
空間の3個の次元のうち、2個のみを示したミンコフスキー空間の図
(旧暦9月28日)
数学セミナーと銘打って長々と書いてきましたが、その内容は結局は近代物理学の発展の歴史でした。
それならば物理学セミナーと名前を変更すれば良いのでしょうが、ま、現代物理学もあらゆる数学概念を駆使して表されている以上、ここまで来た愛着もあるので、このまま数学セミナーという項目で続けましょう。
前回まで、一般相対性理論で示されたアインシュタインの重力方程式を導きだし、その厳密解であるシュヴァルツシルト解を解いて、19世紀初頭にすでにブラックホールの存在を示唆することになったシュバルツシルト半径を求めました。
ところで、アインシュタインの重力方程式の厳密解はこのシュヴァルツシルト解のほかに、いくつか見つけられています。
1. シュバルツシルト解(Schwarzschild solution) (1916)
ドイツの天文学者、天体物理学者カール・シュヴァルツシルト (Karl Schwarzschild、1873〜1916)が、砲兵技術将校として第一次世界大戦時の東部戦線に従軍中に導き出した解で、球対称で自転せず且つ真空な時空を仮定してアインシュタインの重力方程式を初めて解いたもの。
2. ライスナー・ノルドシュトロム解(Reissner‐Nordstrøm solution) (1916,1918)
球対称で自転せず且つ真空な時空はシュバルツシルト解と同じ条件ですが、天体が電荷を持っている点が異なり、ドイツのライスナーが1916年に点電荷の場合について解き、フィンランドのノルドシュトロムが球対称の電荷分布に拡張したもの。
3. カー解(Kerr solution) (1963)
真空中を定常的に回転する軸対称なブラックホールを表現しており、ニュージーランドの数学者ロイ・カー(Roy Kerr)によって1963年に発見されました。
4. カー・ニューマン解(Kerr‐Newman solution) (1965)
回転する電荷を帯びたブラックホールを表現する軸対称時空の計量 (metric)で、1965年にアメリカのニューマン (Ezra T. Newman) らによって発見されました。質量・角運動量・電荷の3つのパラメータを持つブラックホール解として、一般相対性理論の描く時空の姿の理解に広く使われています。
さて今回は、一般相対性理論をさらに展開するために必要なテンソル密度(tensor density)という概念について考えてみます。
ディラック博士(Paul Adrien Maurice Dirac,1902〜1984)は、その著『GENERAL THEORY OF RILATIVITY』のなかで、ブラック・ホールの項の次に、テンソル密度(tensor density)の項を設けて解説しています。
座標を変換すると、4次元の体積要素は以下のように表されます。
と定義されます。
(28.1)を簡略にして、下記のように表します。
と表されますが、右辺は三つの行列の積とみることが出来ます。
これに応じて行列式の間にも、
の関係があります。
を意味しています。
ここで、スカラー (scalar) とは、大きさのみを持つ量のことをいい、大きさと向きを持つベクトルに対比する概念です。
物体が空間内を運動するときの速度が大きさと方向を含むベクトルであるのに対し、その絶対値(大きさ)である速さは方向を持たないスカラーとなります。
他にも時間、質量、長さ、エネルギー、電荷、温度などはスカラー量で、力、電界、運動量などはベクトル量の代表的なものとなります。
公式
と書かれ、
公式
と書かれます。
で、次回の展開は、ガウスの定理およびストークスの定理について考察します。
Carl Friedrich Gauss (1777〜1855), painted by Christian Albrecht Jensen.
ガウスの定理とは、発散定理(divergence theorem)とも呼ばれ、ベクトル場の発散をその場によって定義される流れの面積分に結び付けるものです。
1762年にフランスで活動した数学者・天文学者のラグランジュ(Joseph-Louis Lagrange、1736〜1813)によって発見され、その後1813年にドイツの数学者・天文学者ガウス(Carolus Fridericus Gauss、1777〜1855)、1825年にイギリスの物理学者・数学者グリーン(George Green、1793〜1841)、1831年にロシアの数学者・物理学者オストログラツキー(Михаи́л Васи́льевич Острогра́дский、1801〜1862)によってそれぞれ独立に再発見されました。
また、ストークスの定理はベクトル解析の定理のひとつで、アイルランドの数学者・物理学者ジョージ・ガブリエル・ストークス(Sir George Gabriel Stokes,1819〜1903)が導出しました。このストークスの定理は、三次元の曲面とその曲面上で定義された関数に関し、線積分と面積分を関係づける定理です。
Sir George Stokes, Bt
つづく
数学セミナー(31)− ロバートソン・ウォーカー計量(1)
数学セミナー(30)− 調和座標
数学セミナー(29)—ガウスの定理、ストークスの定理
数学セミナー(27)ーシュヴァルツシルト解(3)
数学セミナー(26)ーシュヴァルツシルト解(2)
数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)
数学セミナー(30)− 調和座標
数学セミナー(29)—ガウスの定理、ストークスの定理
数学セミナー(27)ーシュヴァルツシルト解(3)
数学セミナー(26)ーシュヴァルツシルト解(2)
数学セミナー(25)ーシュヴァルツシルト解(1)
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