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2014年04月05日

数学セミナー(30)− 調和座標

 

  P. A. M. Dirac an der Tafel

 (旧暦3月6日)

 



  達治忌

  詩人、翻訳家三好達治の昭和39年(1964)の忌日。
  大阪市に生まれ、大阪府立市岡中学を学費が続かず退学後、大阪陸軍地方幼年学校を経て陸軍中央幼年学校本科に入学。大正9年(1920)、陸軍士官学校本科に入学するも翌年、北海道まで脱走して退校処分となった。大正11年(1922)、第三高等学校文科丙類を経て東京帝国大学文学部仏文科を卒業。三高で同級の丸山薫の刺激により詩作を始め、桑原武夫、梶井基次郎、河盛好蔵、吉川幸次郎らを知り、東大では小林秀雄、中島健蔵、今日出海、淀野隆三、堀辰雄らと交友した。

 『雪』

 十一月の夜をこめて 雪はふる 雪はふる

 黄色なランプの灯の洩れる 私の窓にたづね寄る 雪の子供ら

 小さな手が玻璃戸を敲く 玻璃戸を敲く 敲く さうしてそこに

 息絶える 私は聴く 彼らの歌の 静謐 静謐 静謐

 



  今回も、ディラック先生の『一般相対性理論』の第22章「調和座標」について考えてみませう。 

 “General Theory of Relativity” P.A.M.DIRAC 22. Harmonic Coordinates

  ディラック先生(Paul Adrien Maurice Dirac、1902〜1984)は、イギリスのブリストル大学で電気工学を学んだ後、1923年にケンブリッジのセント・ジョンズ・カレッジ(St John's College)で数学の研究生となりました。

  1928年、先生は「フェルミ粒子」を記述するところの「ディラック場」が従う基礎方程式であるディラック方程式を提唱しました。
  「フェルミ粒子」(Fermion)とは、スピン角運動量の大きさが (プランク定数 h を 円周率 π の 2 倍で割った量)の半整数 (1/2, 3/2, 5/2, …) 倍の量子力学的粒子であり、その代表は電子になります。そして、その名前の由来は、イタリア=アメリカの物理学者エンリコ・フェルミ (Enrico Fermi、1901〜1954) に依っています。
  また、「ディラック場」(Dirac field)とは、スピン角運動量(spin angular momentum)1/2 のフェルミ粒子を記述するスピノル場(Spinor field、整数または半整数のスピンSの粒子を記述している)と定義されています。

  ディラック先生は、この方程式から導かれる電子の負のエネルギー状態について、いわゆる「ディラックの海」(Dirac sea)と呼ばれる理論を提案しました。この理論では、電子の電荷と符号が逆で大きさは同じ電荷を持ち、電子と同じ質量を持つ粒子(反粒子)の存在が提起されています。先生は当初、この新粒子を陽子ではないかと考えたようですが、後に電子の反粒子である陽電子が、1932年にアメリカの実験物理学者カール・デイヴィッド・アンダーソン(Carl David Anderson、1905〜1991)によって発見されています。

  「ディラックの海」は、相対論的量子論である「ディラック方程式」を解くと出てくる負のエネルギー電子を再解釈して生まれた負のエネルギーで満ちた真空のことですが、光瀬龍原作のSF小説「百億の昼と千億の夜」(萩尾望都により漫画化されている)にも登場しています。

 この萩尾望都の漫画が実に印象に残っています。

 


  『アスタータ50惑星開発委員会』が「シ」の命を受けて行う『ヘリオ・セス・ベータ型開発実験』、アトランティスはその一環としてポセイドン神の管理を受けていたが、ポセイドン神の意に逆らったアトランティスはバランスを失い、街の半分を闇にのまれて滅びた。
  (中略)
  アトランティスの司政官オリオナエ(哲学者プラトンの意識上の分身)は、球体を組み替えて、神のすみか「D座標」に通じる門を作る。その門は、オリハルコンの枠組みに「ディラックの海」のマイナスエネルギーが流れ込み、「D座標」への新しい道を作る装置で、門をくぐった悉達多(シッタータ)、阿修羅、オリオナエの三人は虚数世界に迷いこんでしまう。オリハルコンのかけらがない今、
脱出に失敗すれば「ディラックの海」―完全な無に還元される。
  (後略)


  The Dirac sea is a theoretical model of the vacuum as an infinite sea of particles with negative energy. It was first postulated by the British physicist Paul Dirac in 1930 to explain the anomalous negative-energy quantum states predicted by the Dirac equation for relativistic electrons. The positron, the antimatter counterpart of the electron, was originally conceived of as a hole in the Dirac sea, well before its experimental discovery in 1932.
 ( From Wikipedia)

  ディラックの海は、負のエネルギーを持った粒子の無限の海として、真空の理論的なモデルである。それはディラック方程式によって相対論的な電子のために予測された異例な負のエネルギーの量子状態を説明するために、1930年にイギリスの物理学者ポール・ディラック(Paul Adrien Maurice Dirac,1902〜1984)により最初に仮定された。電子の反粒子である陽電子は、1932年の実験的な発見の前には、ディラックの海の穴として、当初は考えられた。(Wikipediaより)


 ディラック先生は、1933年にオーストリア出身の理論物理学者エルウィン・シュレジンガー(Erwin Rudolf Josef Alexander Schrödinger、1887〜1961)と共に、「新形式の原子理論の発見」(for the discovery of new productive forms of atomic theory)の業績によりノーベル物理学賞を受賞しています。

  さて、本題に入ります。

 The laws of physics must be valid in all systems of coordinates. They must thus be expressible as tensor equations. Whenever they involve the derivative of a field quantity, it must be a covariant derivative. The field equations of physics must all be rewritten with the ordinary derivatives replaced by covariant derivatives. For example, the d’Alembert equation □V = 0 for a scalar V becomes, in covariant form

 

This gives, from (10.1) and (10.5)


 

 Even if one is working with flat space (which means neglecting the gravitational field) and one is using curvilinear coordinates, one must write one’s equations in terms of covariant derivatives if one wants them to hold in all systems of coodinates.
   “General Theory of Relativity” P.A.M.DIRAC 10. Covariant differentiation


 物理法則は、どんな座標系においても、あまねくなりたつのでなければなならい。だから、そのなかに場の量の微分が含まれるとき、それは共変微分でなければならない。物理学における場の方程式は、すべて書きかえて、ふつうの微分を共変微分に直す必要がある。
 たとえば、スカラー場に対するダランベールの方程式□V =0の共変な形は、


 

である。これは、(10.1) 、(10.5)により

 

をあたえる。
  たとえ空間を平らだとして(すなわち重力場を無視して)曲線座標をもちいるとしても、方程式が任意の座標系でなりたつようにしたいならば、それは共変微分で書かなくてはいけない。

   『一般相対性理論』 P.A.M.ディラック 10.共変微分 (江沢 洋訳)


 ちなみに、(10.1) 、(10.5)とは、下記のように式になります。

 

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Posted by 嘉穂のフーケモン at 07:29Comments(0)数学セミナー