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2013年01月02日

おくの細道、いなかの小道(17)−松島(1)

  

 Scenic view of Matsushima. Ukiyo-e woodblock print by Yōshū Chikanobu, 1898.

 (旧暦11月21日)

 一 九日 快晴。辰ノ尅、鹽竈明神ヲ拝。帰テ出船。千賀ノ浦・籬島・都島等所々見テ、午ノ尅松島ニ着船。茶ナド呑テ瑞岩寺詣、不残見物。開山、法身和尚(真壁平四良)。中興、雲居。法身ノ最明寺殿被宿岩屈(窟)有。無相禅屈(窟)ト額有。ソレヨリ雄島(所ニハ御島ト書)所ゝヲ見ル(とミ山モ見ユル)。御島、雲居ノ坐禅堂有。ソノ南ニ寧一山(一山一寧)ノ碑之文有。北ニ庵有。道心者住ス。帰テ後、八幡社・五太堂ヲ見、慈覺ノ作。松島ニ宿ス。久之助ト云。加衛門状添。
 『曾良随行日記』


 あ〜あ、年も明けて、とうとう松島に着きました!
 松島も少なからず東日本大震災の被害を受けましたが、日一日と復興に向かって努力しているようで、早く昔日の賑わいを取り戻して欲しいと思いまする。

 抑ことふりにたれど、松島は扶桑第一の好風にして、凡洞庭・西湖を恥ず。東南より海を入て、江の中三里、浙江の潮をたゝふ。

と、芭蕉翁は『おくのほそ道』松島の段本文に書き記していますが、

 いひつゞくれば、みな源氏物語、枕草紙などに事ふりにたれど、おなじ事また今更にいはじとにもあらず。
 『徒然草 第十九段』


との『徒然草 第十九段』の記述を踏まえ、また、

 夫レ松島ハ、日本第一ノ佳境也
 『瑞巌寺方丈記』 
 蓋(けだし)松島ハ天下第一之好風景
 『鐘之銘』
 『松島眺望集』上巻(天和二年刊)所収


などの先人の文藻を踏まえつつ、新たに芭蕉自身の松島の賦をつづるための詞としたと解説されています。

 「扶桑」は日の出る所にある仙木の名で、日本の異称に用いられ、『日本行脚文集』(元禄二年刊)の巻頭に載せる本朝十二景によれば、奥州松島は駿河の田子の浦に次いで第二位とされています。

 

 本朝十二景 『日本行脚文集』(元禄二年刊)

 また、洞庭湖(Dòngtíng hú)は湖南省北東部にある中国第二の淡水湖で、瀟湘八景の一つとして、杜甫の「登岳陽樓」(『杜律集解』)をはじめ、古来多くの文人墨客の詩文に詠われ、また北宋の士大夫、宋迪(生没年不詳)や宋末元初の僧、牧谿(生没年不詳)、玉澗(生没年不詳)などによって画題としても取り上げられています。

 さらに芭蕉自身も、「魂、呉楚東南に走り、身は瀟湘洞庭に立つ」『幻住庵記』(元禄三年)と記しています。

   瀟湘八景
 1.  平沙雁落  (永州)  衡陽市回雁峰
 2.  遠浦帆歸  (湘陰)  湘陰縣縣城湘江辺
 3.  山市晴嵐  (湘潭)  湘潭市昭山
 4.  江天暮雪  (湘江)  長沙市橘子洲
 5.  洞庭秋月  (洞庭湖) 岳陽市岳陽樓
 6.  瀟湘夜雨  (瀟水)  永州市蘋島瀟湘亭
 7.  煙寺晚鐘  (清涼寺) 衡山縣清涼寺
 8.  漁村落照  (桃源縣) 桃源縣武陵溪


 同じく西湖は浙江省杭州市にある淡水湖で、唐以来文人遊賞の地として、西湖十景をもって詩文・絵画に知られ、特に北宋の官僚で書家でもあった蘇軾(1037〜1101)の詩「飮湖上初晴後雨」や北宋の詩人、林逋(967〜1028)隠栖の地として高名です。

 飮湖上初晴後雨  湖上ニ飮セシガ 初メ晴ルルモ後ニ雨ナリ
    宋 蘇軾
 水光瀲灔晴方好  水光瀲灔(れんえん)トシテ晴レテ方(まさ)ニ好ク
 山色空濛雨亦奇  山色空濛(くうもう)トシテ雨モ亦タ奇ナリ
 欲把西湖比西子  西湖ヲ把(も)チテ西子(越の美女)ト比セント欲セバ
 淡粧濃抹總相宜  淡粧濃抹 總(すべ)テ相(あ)ヒ宜(よろ)シ


  芭蕉も『十八樓記』(貞享五年)に、「かの瀟湘の八つのながめ、西湖の十のさかひも、涼風一味のうちに思ひためたり」と草しています。

   西湖十景
 1. 断橋残雪     6. 花港観魚
 2. 平湖秋月     7. 南屏晩鐘 
 3. 曲院風荷     8. 雷峰夕照
 4. 蘇堤春暁     9. 柳浪聞鶯
 5. 三潭印月     10. 双峰挿雲


 浙江とは中国浙江省を流れる銭塘江のことを云い、初唐の詩人、駱賓王(640 ?〜684 ?)の詩「靈隠寺」(『唐詩訓解』四)の一聯に、門對浙江潮(門ハ對ス 浙江ノ潮)とあり、注に「江口有山、潮水投山十折而曲、故名[江口ニ山有リ、潮水山ニ投ズルコト十折シテ曲(めぐ)ル、故ニ名ヅク]」と見えます。

 靈隠寺    駱賓王
 鷲嶺鬱岧嶢  鷲嶺 鬱トシテ岧嶢(てうげう、高くそびえる)
 龍宮鎖寂寥  龍宮 鎖シテ寂寥
 樓觀滄海日  樓ハ觀ル 滄海ノ日
 門對浙江潮  門ハ對ス 浙江の潮
 桂子月中落  桂子(木犀の実)ハ 月中ヨリ落チ
 天香雲外飄  天香ハ 雲外ニ飄(ひるがへ)ル
 捫蘿登塔遠  蘿(つた)ヲ捫(と)リテ塔ニ登ルコト遠ク
 刳木取泉遙  木ヲ刳(ゑぐ)リテ泉ヲ取ルコト遥ナリ
 霜薄花更發  霜薄クシテ花更ニ發シ
 冰輕葉未凋  冰(こおり)輕クシテ葉互ヒニ凋(しぼ)ム
 夙齡尚遐異  夙齢(しゆくれい、若年) 遐異(かい、世俗と異なること)ヲ尚ビ
 搜對滌煩囂  搜シ對(こた)ヘテ 煩囂(はんがう、騒がしいさま)ヲ滌(すす)グ
 待入天臺路  天臺ノ路ニ入ルヲ待チテ
 看余渡石橋  余ノ石橋ヲ渡ルヲ看ヨ
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Posted by 嘉穂のフーケモン at 16:22Comments(0)おくの細道、いなかの小道