2006年08月19日
数学セミナー (11) − エントロピー
Ludwig Boltzmann (1844〜1906)
(旧暦 7月26日)
義秀忌 昭和13年(1938)に「厚物咲」により第7回芥川賞を受賞した作家中山義秀の昭和44年(1969)年の忌日
村議会の委員会で、「貴君は理科系出身だからエントロピーについては知っておるでしょう」と他会派の大先輩から云われて一瞬「ギクリ」としましたが、「ええ、まあ」とお茶を濁しておきました。
そして昔、農学校の時代に、エントロピー概念が出てくる「熱力学」の試験で赤点を取り、再試験で単位を取った苦い思い出が蘇りました。出来れば、「エントロピー」とか「エンタルピー」と云う言葉は二度と聞きたくなかったのですが・・・・。
その大先輩曰く、「実はエントロピーの法則を覆しエネルギー問題を解決できる画期的な大発明がなされて、近く発表される」とおっしゃられる。
噂では、「水から水素を取り出してエネルギーとし、その水素をまた水に還元してリサイクルさせる装置だそうで、水素を抽出する特別なエネルギーもいらない△×※○・・・」
水を分解して水素を抽出するためには多大な電力を要するはずで、現代科学においてはこのような「永久機関」の存在は否定されており、どうも胡散臭い話しに騙されておられるのではと思っておりましたが、今のところ、そのような大発明がなされたというニュースも聞かないし、きっとデマ話だったのでせう。
エントロピーという概念は古典熱力学において初めて登場し、それは物質の状態が定まれば一意的に定まる量で、物質の状態の微小変化におけるエントロピーSの変化は次式で与えられます。
ここでdQは物質の状態の変化に伴う熱量の微小変化であり、そのときの絶対温度がTになります。 続きを読む
2006年01月26日
数学セミナー(10)−円周率
Archimedes Thoughtful by Fetti (1620)
Archimedes(B.C.287頃〜B.C.212)
(旧暦 12月27日)
「小学校の新しい教育課程では、円周率を『3』として教えるのだそうだ」という話を聞いたことがあり、「日本の教育もここまで来たか」と少々落胆しておりましたが、どうやらこの話は、マスコミの誤った報道が原因で全くのデマだと云うことです。
円周率、すなわち「円の周と直径との比が一定である」ということを理論的に初めて証明したのは古代ギリシアの天文、物理、数学者アルキメデス(Archimedes、BC287頃〜BC212)であろうとされています。
アルキメデスは、円に内接および外接する正6角形の周を計算し、それから次々に辺数が2倍になっていく正n角形の周を求めて正96角形までつくり、それによって下記のような評価を得ました。
ただしπ記号は、ギリシア語のπεριφερεια(周り)の頭文字を語源とし、πを記号としてはじめて使ったイギリスの数学者ウィリアム・ジョーンズ(1675〜1749)は、periphery(周囲)という意味でπを用いたとのことです。
その後、18世紀最大の数学者であったレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler、 1707〜1783)がその著『無限解析入門』(Introductio in Analysin Infinitorum,Lausannae, 1748, First edition.)のなかで円周率の記号としてπを使ったので、1748年以後、一般にπを使うようになったと言われています。
アルキメデスはさらに、「球積率」も円周率と関係しており、半径rと球の体積Vは、
であることも示しました。 続きを読む
2005年10月05日
数学セミナー(9)−相対性理論(2)−特殊相対性理論(2)
Hendrik Antoon Lorentz(1853〜1928)
(旧暦 9月 3日)
レモンの日 高村光太郎の妻智恵子の昭和13年(1938)の忌日。
相対性理論(1)−特殊相対性理論(1)のつづき
マクスウェルの方程式は真空中では次のようになります。
ベクトル公式
を使って、Bを消去し、Eについての式を解くと、
また、ベクトル公式より
従って、
この形の微分方程式は「波動方程式」と呼ばれており、その解は、任意の波動関数が時間によって形を変えずに空間を移動してゆくことを表しています。 続きを読む
2005年10月03日
数学セミナー(8)−相対性理論(1)−特殊相対性理論(1)
James Clerk Maxwell(1831〜1879)
(旧暦 9月 1日)
蛇笏忌 俳人飯田蛇笏の昭和37年(1962)年の忌日
芥川龍之介氏の長逝を深悼す
たましひの たとへば秋のほたるかな
19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、物理学はそれまでの理論では説明することのできない様々な現象に遭遇しました。
その一つが、力学の理論的な結論であるニュートン力学と、電磁気学の理論的な結論であるマクスウェルの方程式が相矛盾することで、当時の大きな問題となっていました。
ニュートン力学によれば、例えば一定速度Vで動いている電車を座標系Rとし、地上を座標系Sとすると、電車の中で速度V(R)で運動しているボールは、地上から見るとV(R)+Vで運動しているように見えます。
つまり、
の関係が成り立ちます。
これは、ガリレイ変換( Galilean transformation)と呼ばれ、ある慣性系(運動の法則が成り立つ所)における物理現象の記述を、別の慣性系での記述に変換するための座標変換の方法の一つです。
つまり、電車の中の座標系Rでも地上の座標系Sでも、同じ運動の法則が成り立つことから、「ニュートン力学から導かれる力学の法則はガリレイ変換に対して不変である」(ガリレイ不変)ことが知られていました。
これに対しマクスウェルの方程式は、真空中の光(電磁波)の速度は、座標系によらずに一定であることを示していました。つまり、マクスウェルの方程式からは、電車の中からみた光の速度V(R)と、地上から見た光の速度V(S)も電車の速度に関係なく共に等しく、
でなければならないと云うものでした。
例えば、光速に限りなく近い宇宙船の中での光速は、地球上から見れば古典力学では、
となるはずですが、実際は
となってしまいます。 続きを読む
2005年08月12日
数学セミナー(7)−量子力学(6)−シュレーディンガー方程式
Erwin Schroedinger(1887〜1961)
(旧暦 7月8日)
しかし、一様でない運動をしている粒子に伴う波に対して、ド・ブロイの考えを拡張したのは、オーストリアの理論物理学者でチューリヒ大学教授のシュレーディンガー(Erwin Schroedinger, 1887〜1961)でした。 続きを読む
2005年07月03日
数学セミナー(6)−量子力学(5)−物質波(2)
Louis-Victor Pierre Raymond, 7. duc de Broglie(ド・ブロイ公爵7代公)(1892〜1987)
(旧暦 5月27日)
量子力学(4)−物質波(1)のつづき
プランクやアインシュタインの光子の仮説は、波として考えられていた光(電磁波)が粒子としての性質を持つことを示していました。
フランスの名門貴族であるド・ブロイ家の出身であるルイ=ヴィクトル・ピエール・レイモン・ド・ブロイ[ Louis-Victor Pierre Raymond, 7. duc de Broglie(ド・ブロイ公爵7代公)、1892〜1987] は、これとは逆の関係、すなわち粒子として考えられてきた電子のような物質粒子も波としての性質を持つのではないかと考えました。
エネルギー E 、運動量 p の粒子と、これに伴う波の波動数νと波数k(波長λの逆数:k=1/λ)とは、アインシュタインが光子について仮定した関係式
によって結ばれるとド・ブロイは仮定しました。 続きを読む
2005年06月30日
数学セミナー(5)−量子力学(4)−物質波(1)
Robert A. Millikan(1868〜1953)
(旧暦 5月24日)
光晴忌 詩人・金子光晴の昭和50年(1975)の忌日。
ちょうど100年前の1905年(日本では明治38年)は、現代物理学にとっては「奇跡の年」と呼ばれています。
スイスのベルンの特許局に3級技術専門職として勤める26歳の無名のアルベルト・アインシュタインという青年が、「光量子仮説」、「ブラウン運動の理論」、「特殊相対性理論」に関連する5つの重要な論文を立て続けに発表し、その後の物理学の発展に大きく貢献した年だからでした。 続きを読む
2005年06月10日
数学セミナー(4)−量子力学(3)−マトリックス(行列)力学
Werner K. Heisenberg ( 1901〜1976)
(旧暦 5月 4日)
源信忌、惠心忌 平安中期の天台宗の僧侶・源信の寛仁元年(1017)忌日。 比叡山横川の恵心院に住んだので惠心僧都とも呼ばれる。
数学セミナー(3)−量子力学(2)のつづき
「ボーアの量子論」(Bohr’s quantum theory)によって、原子の構造、特に水素原子のエネルギー、大きさ、安定性、スペクトルなどを含む構造が説明できるようになりましたが、量子論を整備することは出来ませんでした。
この観点を進めたのは、ドイツの理論物理学者ハイゼンベルグ(Werner K. Heisenberg : 1901〜1976)でした。
ハイゼンベルグは古典力学における物理量をマトリックス(matrix : 行列)で表して量子論へ移ることが出来ることを発見しました。
「マトリックス」いいましても、ウォシャウスキー兄弟が、ワーナー・ブラザースの資本を得て1999年に製作したアメリカ映画で、新感覚のSFXで彩られた重厚かつスタイリッシュな超弩級アクション巨編とは違いまっせ! 続きを読む
2005年05月22日
数学セミナー(3)−量子力学(2)−ボーアの量子論
ニールス・ボーア(Niels Bohr、1885〜1962)
(旧暦 4月15日)
数学セミナー(2)−量子力学(1)のつづき
光はプリズム(ガラスなどでできた多面体)内を通過するとき、各波長の屈折率差により分散性を生じます。これを利用して波長(色)を分離することができます。
光を波長(色)毎に分解して並べたものをスペクトル(spectrum)といいます。ちなみに自然のスペクトルは、虹ですね。
このプリズムを使ってスペクトルを詳しく観察したのはニュートン(Sir Isaac Newton、 1643〜1727)が最初だそうですが、種々のガスを封入した放電管や、いろいろな物質の電極の間に高電圧をかけて放電させたとき放射される光は、そのガスや物質に特有の線スペクトルを示します。
太陽光線は連続スペクトルですが、水素のスペクトルの中で可視部から紫外線の部分にかけて現れる「バルマー系列」と呼ばれる一群の線スペクトルがあります。 続きを読む
2005年05月10日
数学セミナー(2)−量子力学(1)−プランクの量子仮説
マックス・プランク(Max Planck,1858〜1947) 1878年
(旧暦 4月 3日)
四迷忌 小説家・翻訳家の二葉亭四迷の明治42年(1909)年の忌日。 前年から朝日新聞社特派員としてロシアに渡り、病気で帰国の途中のインド洋上で客死した。
19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、実験物理学の世界では、それまでの理論では説明できない種々の現象に出くわしていました。
黒体(外部から入射する、光や電磁波による熱輻射などを、あらゆる波長に渡って完全に吸収する物体で、完全黒体は現実には存在しないと言われていますが、ブラックホールなど近似的にそうみなせる物質、物体はあります)からの熱輻射のスペクトル分布や低温における固体の比熱、あるいは常温での自由な2原子分子の運動において5個の自由度しか現れないということがそのような種類の問題でした。
ちなみに通常、2原子分子の運動の自由度は、重心の並進運動の自由度3(x方向、y方向、z方向)、重心の周りの回転運動の自由度2(分子軸の回りの回転運動と分子軸に垂直な方向の軸の回りの回転運動)、振動の自由度1の合計6個となります。 続きを読む
2005年04月21日
数学セミナー(1)−ピタゴラスの定理
Pythagoras, the man in the center with the book, teaching music, in The School of Athens by Raphael.
(旧暦 3月13日)
本棚の片隅から、日本評論社の「数学セミナー」1972年12月号臨時増刊が出てきました。あれからもう33年も経ってしまいました。
この臨時増刊号は、『数学100の発見−その発展の軌跡』と題し、数学教育協議会を結成し、数学教育の改良運動に身を投じた今は亡き東京工業大学名誉教授遠山啓(ひらく)博士(1909〜1979)と少年時にアインシュタインの来日に触発され、「相対性理論」を理解すべく数学者を志し、後に「一般相対性理論」の数学的基礎付けをなす微分幾何学の世界的研究者として活躍した東京工業大学名誉教授矢野健太郎博士(1912〜1993)の編集により、数学界の錚々たる碩学が執筆した数学発達史のハンドブック的雑誌でした。
内容は、「分数」に始まり「カテゴリー・ファンクター」に終わる物理学の発展と密接に関連して発達してきた数学の100の概念が解説してあり、分かったようで分からない、分からないようでますます分からない、難解な数学の世界の広大な異次元空間が広がり、暗黒の宇宙の彼方に放り込まれたような絶望感を覚えたものでした。 続きを読む